2015年に入り、中国と香港の証券市場で「深港通(深センと香港の株式市場の相互乗り入れ)」が話題になっている。14年11月にスタートした「滬港通」に続き、中国の証券市場の対外開放をさらに進める施策で、15年内の実現が噂されている。海外の投資家にとっては深センA株という新たな投資先が増えるほか、相対的に出遅れている香港H株のキャッチアップも想定されよう。
15年内のスタート目指す
「深港通」については「滬港通」のスタート前後から盛んに取り沙汰されており、2015年の証券業界のビッグイベントとして期待されている。中国の李克強首相が1月5日に「滬港通の後には深港通があるべきだ」という旨の発言をしたほか、香港特別行政区の梁振英・行政長官は2月9日、深港通の15年下半期の実現を希望すると語った。市場では、早ければ6月にも計画がまとまり、年内スタートとの観測も出ている。
深港通により海外マネーの深セン市場への流入が想定されるが、各指数はそれを先取りして思惑的な値動きが始まっている。深セン総合指数と深証100指数は14年中盤以降、いずれも上海総合指数と同じような右肩上がりのトレンドで推移している。13年末からの上昇率は40~50%に上る。香港のH株指数がわずか10%程度の上昇にとどまっているのとは対照的だ。
深セン市場と上海市場の大きな違いとしては、上場銘柄のセクター構成が挙げられる。上海総合指数のセクター別ウエートは、金融(35.5%)と工業(18.9%)の2業種で過半数を占め、エネルギー(13.3%)と資源(8.5%)を加えると全体の76.2%になる。金融と重厚長大産業の比率が高く、オールドエコノミーの動きを比較的反映しやすい指数と言える。一方、深セン総合指数を見ると、トップはITの19.0%で、以下、工業(18.3%)、一般消費財(17.0%)、資源(13.2%)、金融(12.6%)と続き、バランスが取れた構成だ。ヘルスケアは9.0%、生活必需品は6.3%で、市民の生活に身近なセクターや銘柄が多く上場していることがうかがえる。
時価総額は、上海市場の24兆4948億元に対し、深セン市場はその約6割に当たる14兆6190億元だ(いずれもA、B株合算。15年2月13日時点)。
出遅れ気味の香港H株に妙味
さて、深港通は早期実現に向けた計画待ちの段階だが、現状の投資戦略としては出遅れ気味の香港株に注目する方法が考えられる。実績ベースのPERは、深セン総合指数が38倍、上海総合指数が15.4倍となっているのに対し、ハンセン指数は10.5倍、H株指数は8.4倍とまだ低水準だ(いずれも15年2月13日時点)。
前述のように、深セン総合指数の構成銘柄はITや消費、ヘルスケアなど次世代産業が多いため、PERは高く推移しがちだが、その上昇及び下落トレンドは他の指数の場合とほぼ一致している。今後、ハンセン指数及びH株指数のPERベースでの割安感が意識されれば、株価水準の訂正が行われる可能性が十分にあろう。
また、AH重複上場の銘柄の株価乖離率の参考になるAHプレミアム指数は、直近で「A株割高、H株割安」の傾向を示している。過去の経験則では、同指数が高値を付けた後、H株指数がそれを追うように上昇する動きが見て取れる。この意味でも、H株指数の水準訂正が期待されるタイミングと言えよう。
香港株の投資戦略
また、AH重複上場銘柄の株価乖離率に着目した投資戦略も一定程度有効となろう。これは、乖離率が大きく、割安なH株に投資妙味があるという考えに基づくものだ。当部のまとめによると、乖離率は浙江世宝(01057)が357.5%、山東墨龍石油機械(00568)が294.11%、東北電気発展(00042)が253.42%などだった。ただ、これらは中小型株ならではの投機的及び思惑的な株価の動きが見られるため、投資の際は注意が必要だろう。一方、業績が比較的安定しており乖離率も40%以上ある新疆金風科技(02208)や中興通訊(00763)などへの投資リスクは限定的という見方もできるのではないだろうか。
(投資調査部 奥山)