中国・香港市場が再び調整局面を迎えている。香港のハンセン指数は11月8日につけた高値24,988ptを境に反落。上海総合指数は同11日につけた3,186ptをピークとして利食い売りが入り、3,000ptを割り込む展開となった。背景にあるのは中国の引き締め懸念。今年を通じて株式市場の最大のテーマとなってきた中国の金融政策だが、CPI(消費者物価指数)の上昇や過剰流動性への警戒感から、ここに来て「引き締め」というキーワードが再び注目されている。年内の利上げは必至との見方も多くあり、年末から来年にかけて、中国株市場は政策に左右される相場展開が続きそうだ。一方、利上げや預金準備率などの発表で悪材料出尽くし感が意識されれば、調整局面から脱却し、緩やかな上昇基調に転じる可能性も大いにあると言えよう。
預金準備率を2回引き上げ、市場は反応薄く
11月に入り、中国株の各指数は上値を追う展開が続いていた。背景にあったのは、米金融緩和を背景とした過剰流動性相場への期待感。大量のマネーが商品市場や新興市場に流れるとの思惑が働き、株式市場はそれに先行する形で買い進まれた。
ところが、この上昇相場を一転させたのが中国の引き締め懸念。中国の10月のCPI(消費者物価指数)上昇率が前月の3.6%からさらに加速するとの見方が浮上し、利上げなどの引き締め観測が高まった。
中国や香港の株式市場では今年、「引き締め観測で下落、政策発表で上昇」という傾向がある。金利や預金準備率、不動産市場の引き締め策などが観測レベルで報道されると、マーケットは敏感に反応して大幅安となる。しかし、実際に引き締め政策が発表されると、市場では織り込み済みとの見方や悪材料出尽くし感が浮上し、指数は逆に買い戻される――というものだ。
今回も中国政府はこの市場の特性に沿って政策を発表してきた。CPI発表前日の10日に預金準備率引き上げを発表し、市場の引き締め懸念から来る売り圧力の払拭を狙ったのである。ただ、今回の場合、実際の10月CPI上昇率は4.4%という高水準になったため、市場では引き締めへの懸念がより強まる形となった。中国政府は19日にも、11月で2度目となる預金準備率引き上げを発表したが、市場の反応は薄かった。投資家は「次の利上げはいつか」という疑心暗鬼にとらわれ、積極的な買いを控えている段階だろう。今後も、大幅利上げなどを通じた「引き締めの打ち止め感」が意識されない限り、マーケットは疑心暗鬼という大きな壁に阻まれる流れは続くのではないだろうか。
「引き締め相場」と50日移動平均線
それでは、マーケットは今、どのような水準にあり、今後どのような値動きをしていくのだろうか。ここではハンセン指数を例に取り、二つの観点から見てみる。
(1)04年の相場との相似性
09年から10年にかけての相場動向は、03年から04年にかけての値動きに似ていると言える。「TOYO CHINA MONTHLY」2010年3月号ではすでに、「04年の金融引き締め局面との比較から見る当面の相場見通し」と題した記事の中で、引き締めへの政策転換がなされ株価は逆に上昇局面になるとの見方を論じていた。つまり、1.景気回復感を先取りした株価上昇が起こり(03年と09年)、2.その後金融引き締め観測から株価が調整段階に入り(04年と10年前半)、3.実際の利上げ発表があると調整局面からの脱却が図られる―というものである。
下記チャートでも確認いただきたいが、偶然ながら04年と10年では同じ10月に利上げが実施された。04年の場合はその後、悪材料出尽くし感や押し目買いのチャンスとの思惑が広がり、05年以降の上昇相場につながった。今回は、11月における高値警戒感からの利食い売りで調整は一段落し、市場は徐々に落ち着きを取り戻していくと考えられる。12月上旬に開催予定の中央経済工作会議で、来年にかけての過剰流動性抑制や追加引き締め策への言及がなされれば市場への影響は一定程度あろうが、逆に引き締め政策への転換がはっきりしてくればマーケットも素直に反応するのではないだろうか。上述の疑心暗鬼がほぼ払拭され、企業業績や第12次五カ年計画(2011〜15年)に向けた政策への期待感が相場を支えていくとみられる。
(2)50日移動平均線をめぐる攻防
香港では、当面の相場動向を見る上で50日移動平均線が重視されている。ハンセン指数は昨年後半にかけての上昇局面で、同平均線をきれいに上回る(=利食い売り後の下値メド)値動きを続けてきた。
同指数は11月8日につけた24,988ptから利食い売りが膨らみ、反落している。26日の終値は22,877ptで、50日移動平均(23,291pt)を若干下回る水準となった。
もちろん、株価が同平均線を割り込んだまま推移する可能性もあるが、これまでのケースを参考にすると、ひとまずの調整は完了したとの見方も出来よう。50日移動平均線が株価の転換点になる可能性が大いに考えられる。
また、移動平均からの乖離率も参考になろう。直近では乖離率は5%前後で推移しており、これを上回る(下回る)と売られる(買い戻される)傾向にある。現在値は同平均線をやや下回っており、相場反転のきっかけと共に、下値余地も限定的ということができよう。
マネーは株式市場に流れる傾向に
株価を支えるのは政策だけではなく、需給関係、すなわちマネーの流れも重要な要素となってくる。当部では以下の各点を背景として、来年にかけて需給はしっかりしたものになると考えている。
1.米金融緩和による世界的な過剰流動性拡大
米連邦準備制度理事会(FRB)が11月3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で6,000億米ドルの国債の追加購入を決定。いわゆるQE2(Quantitative Easing 2=金融緩和政策第2弾)効果で商品市場や新興市場への大規模マネーの流入が進み、相場の押し上げ効果があると考えられる。
2.実質マイナス金利
定期預金金利(1年物)は2.5%だが、CPI上昇率は4.4%(10月)に上っており、中国では実質的なマイナス金利状態が続いている。これを受け、個人投資家の中で貯蓄を投資に回す動きが強まるとみられ、市場への新たな資金流入につながる可能性も。3.不動産引き締め
中国では今年に入り不動産の引き締め策が相次いで発表されている。9月末には、3軒目以上の住宅ローンの一部停止、2軒目購入時の頭金比率を50%以上に引き上げることなどが中国人民銀行などから発表された。不動産価格も下落基調にあることから、不動産マネーの株式市場への流入観測が出ている。
4.人民元の上昇期待
人民元の先高感を背景に、海外のホットマネーが元の資産価値向上を狙い株式市場に流れ込む傾向にある(3.にもつながるが、現状では不動産よりも株に向かいやすい)。また、実際に元高が進むと、石油、不動産など指数ウエートの大きい銘柄が買われ、相場全体を押し上げるとみられる。
(アジア部 奥山)