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巨龍のあくび

第55回:風流大統領

いにしえの万葉集で「みやび」と和訓が振られたように、「風流」とは花鳥風月を愛する上品で洒脱なさまを意味し、筆者も一度で良いから風流な人物と呼ばれたいと思っているが、中国では間違っても「風流」とは言われたくないものだ。中国でも元々は優雅なさまを意味していたからこそ、その意味を携えて「風流」という漢字は日本に伝来したのである。その証拠に、中国四大奇書の一つ水滸伝に登場する梁山泊第15位の好漢・董平(天立星)は天下無双の槍術のみならず、六韜三略を諳んじ、管弦の道を究めていた故を以て「風流双槍将」、「風流万戸侯」として描かれているのである。

ところが、駅長驚く勿れではないが、言葉というものは時代と共に時に変改するようであり、中国ではいつの間にか「風流」が男女間の色事を意味するようになった。かつてモニカ・ルインスキー嬢と浮名を流したクリントン元大統領は、中国や香港のメディアから当時盛んに「風流総統(好色大統領)」と揶揄されたものである。ご当地アメリカでは更に辛辣で、クリントン大統領を昔のニクソン大統領と対比させたこんな露骨なジョークが一時大流行し、いまや中国でもインターネットを通じて広く人口に膾炙している。筆者も何度か携帯メールでこんなメッセージを受け取った記憶がある。

ニクソン:ExPresident(元大統領)である

クリントン:SexPresident(翻訳…省略)である

ニクソン:ウォーター・ゲート(WaterGate)事件の主人公

クリントン:ウォーター・ベッド(WaterBed)事件の主人公

ニクソン:北ベトナムへの、絨毯爆撃(CarpetBombing)で有名な人物

クリントン:絨毯上での、くんずほぐれつ(CarpetBurns)で有名な人物

ニクソン:冷戦(ColdWar)を警戒した

クリントン:口唇ヘルペス(ColdSore)を警戒した

リチャード・ニクソン大統領は、ヘンリー・キッシンジャー補佐官とコンビを組んで米中国交回復の道を開いた人物であり、むかしから中国での評価は高いが、米国ではその悪相とウォーター・ゲート事件の影響もあり、権謀術数を好む陰険な人物といわれてきた。ところが冷戦構造の終焉後は、徐々に彼の評価が見直されつつあり、ジョークの世界でもクリントンとの対比では大政治家と位置付けられているのが何とも滑稽である。因みに、ニクソンの著書「指導者とは」は本人の自己PRの臭気がやや強いきらいはあるものの、国際政治を学ぶ上での第一級の資料である。本著のなかにはアジアの政治家も数多く紹介されており、日本人では吉田茂、中国人では毛沢東・周恩来・蒋介石の評価が特に面白い。

閑話休題、最近の中国では、共産党機関紙の人民日報は「敬して之を遠ざく」人が多いようで、庶民には娯楽や社会ネタに力を入れている「新民晩報」、「重慶晩報」などのタブロイド新聞が売れているようだ。一面を飾る巨大なカラー刷りの見出しは、(古くて恐縮だが)「血だるまジャイアント馬場、外人組を粉砕!」といったセンセーショナルなトーンで貫かれており、日本のスポーツ新聞そっくりである。中国タブロイド紙の一面に「真相○○風流事件」といった大きな見出しが躍っていれば、男女の痴情に絡む事件と考えてまず間違いないだろう。

中国語の「風流」はことほどさように厄介な言葉だが、中国語の「下流」という言葉は更に煩わしい。もしもあなたが中国人から冗談めかして「あなたは風流(フォンリュー)だね」と言われても、親しい間柄であれば「君はプレイボーイだから」というくらいの軽い意味だから、頭を掻きながらヘラヘラ笑っていればそれで済むが、若い女性から「あなたは下流(シアリュー)だわ!」と決めつけられたら万事休す、もうお仕舞いだ。彼女との仲が発展する可能性はないだろう。「下流」本来の意味は川の上流に対する下流の意味だったのだろうが、現代中国では「下品・下劣・最低」という意味になる。

ここで中国を代表する基幹産業の両雄に登場頂こう。中国を代表する石油会社であるペトロチャイナ(PetroChina=中国石油天然気)とシノペック(SINOPEC=中国石油化工)、中国の高速道路を走れば到る所に両社のガソリンスタンドを見かけるが、このライバル二社の歴史的背景は似て非なるものがある。

かつて計画経済時代だったころのペトロチャイナは大慶油田(黒龍江省)や勝利油田(山東省)を擁する(上流部門の)油田管理部門であり、行政機関としての格は日本でいえば「省」に相当する大部局であった。一方シノペックは中国全土の石油コンビナートを統括する(中流・下流部門の)国営企業群がそのルーツである。その二部門が、改革開放の時代に入り業務の相互乗り入れを行い、その結果石油の探索・掘削から始まり、精製そして販売までをカバーする総合石油企業に変身を遂げる。株式会社に転換したいま両社の時価総額は全世界の企業のなかでもトップクラスに位置するまでとなり、特にペトロチャイナはこの数年、エクソン・モービルと時価総額世界一で抜きつ抜かれつの大接戦を演じている。世界の石油メジャーに育ちつつある両社であるが、計画経済時代からの歴史的背景はいまでも生きており、それが両社の特徴や強みとなっている。

しかしながら、石油の中流・下流部門(精製・元売・小売)に強みを持つシノペックの経営幹部に向かって、うっかり「貴社は下流だ」などと口を滑らせると、10年の出入り禁止では済まないだろう。企業訪問の際は、くれぐれもご注意いただきたい。

文中の見解は全て筆者の個人的意見である。

平成22年7月29日

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杉野光男(東洋証券 主席エコノミスト)

【経歴】

1974年
一橋大学商学部卒
同年
三菱信託銀行入社
1981年
上海華東師範大学へ留学
三菱信託銀行北京駐在員、上海駐在員事務所長、中国担当部長を経て2007年より現職
著書
「日本の常識は中国の非常識」(時事通信社)
「中国ビジネス笑劇場」(光文社) 等
【ひと言】
さまざまな矛盾を内包しつつ驀進する中国。その素顔をメディア情報だけでなく、現地取材、ネットや口コミ情報も交え楽しくお伝えできればと思います。腹を抱えて笑うジョークの中に、しばしば今の中国を理解するキーワードが潜んでいるものです。
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