大規模金融緩和で復活する中国株式市場 ~日本のバブル崩壊とは異なる中国不動産問題~
中国の不動産問題は不動産価格の下落が限定的などの理由から日本のバブル崩壊と異なり、銀行の貸しはがし等は生じないとみられる。香港市場は米利下げを背景に既に上昇を始め、優良株が物色されつつある。
9月の香港市場は他国を上回る上昇
9月1~25日の香港ハンセン指数の騰落率は+6.3%、上海総合指数は+1.9%。中国の両株価指数の上昇率は米国S&P500種指数(+1.3%)や日経平均(-2.0%)の騰落率を上回った。香港市場は割安感と米利下げ期待等に加え、9/24に発表された0.5%ptの預金準備率引き下げを含む金融緩和策を好感し確りの展開。本土市場も前述の金融緩和策を背景に上昇し、上海総合指数は9/24には前日比+4.2%となった。
8月経済指標は景気減速の継続を示す
8月は、輸出は相対的に高い伸びを示したが、その他の主要経済指標は7月よりも伸び率が鈍化し、景気低迷が長引いていることを示した。小売売上高は自動車販売の不振もあり低い伸びとなり、景気下支えが期待されるインフラ投資の伸びも鈍化した。内需の弱さに加え、自然災害の影響も考えられる。
大規模金融緩和で復活する中国株式市場
米国でトランプ政権が25年に誕生した場合、中国製品に対し60%超の関税をかける可能性があり、中国政府は貴重な財源を25年のトランプリスクのために取って置くと見込む。ただし、米国では9/18に予想を上回る0.5%ptの利下げを決定。25年末にかけて更に1.5%ptの利下げ見通しのため、中国は為替レートを安定的に維持しながら金融緩和の余地ができたといえよう。9/24に潘中国人民銀行総裁は景気下支えのために、各種の金融政策を発表。具体的には、①0.5%ptの預金準備率の引き下げ、②7日物リバースレポ金利の1.70%から1.50%への引き下げ、③2軒目以降の住宅購入の頭金比率を25%から15%への引き下げ、④既存住宅ローン金利の0.5%ptの引き下げ、⑤株式市場安定化策として、総額1.3兆元の株式安定化基金を設立し流動性支援を行う計画を示した。24年3月末の住宅ローン残高は38.2兆元のため、0.5%ptの利下げは消費者の金利負担を年間1900億元軽減するとみられ、追加の消費がGDPを0.1%程度押し上げると見込む。更に、9/26に政府は国慶節前に貧困層への現金給付を行う等、総額1547億元(GDP比0.1%)の補助金を支給すると発表。これらの刺激策で新築住宅市場が下げ止まり、消費者の消費意欲が高まれば、5%前後の今年の成長目標は達成可能とみられる。
金融緩和は景気刺激策ではあるが、それ以上に株価の押し上げ要因になろう。また、政府が株式市場を支援する意思を示したことが、株価の上昇要因になると考える。国慶節(10/1~7)明けの本土市場も堅調に推移しよう。また、香港市場は米国の利下げ継続が見込まれるため、上昇基調を維持すると考える。ただし、11月の米大統領選という不透明要因が残るため、選挙が近づくにつれ短期的に上値が重くなるとみる。
日本のバブル崩壊とは異なる中国不動産問題
中国の不動産会社の倒産懸念が高まり、新築住宅販売が急減したため、多くの投資家は中国の不動産問題が「日本のバブル崩壊」だと危惧していよう。しかし、現状を見ると中国の不動産問題が日本のバブル崩壊とは異なることがわかる。
①新築住宅市場は概ね調整終了中国の新築住宅販売件数は婚姻件数を5年程度後から追随する傾向が見られる。中国は少子化の影響で婚姻件数が30年にかけて600万件程度へ減少すると見込む。一方、新築住宅販売は21年に1400万件に迫ったものの、24年には680万件程度と既にピークの半数程度へ減少しよう。600万件には至っていないものの、調整は概ね終了に近付いているとみられる。
②中国の不動産価格の下落は限定的日本のバブル崩壊では、不動産価格が大幅に低下した。首都圏のマンション価格はバブル崩壊3年後にピーク価格から27%低下し、10年後には34%低下した。一方、中国では主要70都市で21年にマンション価格のピークを打ち、3年後の24年にはピークから8%下落と下落幅は限定的にとどまっている。中国政府はマンションの安値販売を容認しておらず、価格は高止まりしている。また、日本のバブル崩壊では、全国の住宅地の地価が3年後にピークから4割下落し、10年後には半分になった。中国では土地は主に国の所有で売買されないため、地価の代わりに土地使用権価格で代用すると、住宅用地の使用権価格は24年も上昇を続けている。
③銀行の貸し渋り/貸しはがしを回避銀行融資の担保である不動産価格が相対的に安定しているため、日本のバブル崩壊後にみられた貸し渋り、貸しはがしなどの経済活動を阻害する行動は中国では回避されよう。また、金融当局は銀行の健全性に注意を払っており、商業銀行の不良債権比率は6月末に1.56%、要注意先債権を含めても3.78%と低い。更に、不良債権の償却も急ピッチで進めている。
香港の優良IT銘柄は上昇期入りか
日本のような「失われた30年」にならないため、中国政府は腐心している。中国の不動産問題も短期では終わらないとみられるものの、投資家が中国と日本の不動産問題が異なるとわかるにつれ、投資資金は中国市場に戻ってこよう。
中国政府は8月末にアリババ集団(09988)のコンプライアンス是正の取り組みを評価した。政府によるIT企業に対する規制の波は正式に一段落したとみられる。政府の規制強化等を背景に、同社株価は22年に高値の1/5、テンセント(00700)は1/4近くまで下落し、下落率は指数を上回った。しかし、足もとの香港株の上昇で売られ過ぎた優良IT銘柄が市場を牽引している。中国株の中長期的な見直し買いの局面でも、優良銘柄がけん引すると考える。
(投資情報部 白岩CFA)