2020年の中国株市場は、内外の懸念材料を織り込みながら、総じて小動きの展開になると予想する。セクターでは引き続きインフラや消費に注目するが、「スマート」というキーワードも投資のヒントになりそうだ。
リスク意識も19年はまずまずのパフォーマンス
2019年の中国株市場は、中国の景気減速感と米中貿易摩擦の不透明感で「内憂外患こもごも至る」という状況の中、比較的健闘したと言えるだろう。
年初のスタートは好調。米中協議への期待感から2月下旬から買い優勢となり、上海・深セン両市場の1日当たり総売買代金が1兆元を超える日もあった。上海総合指数は2,440pt(1/4安値)⇒3,288pt(4/8高値)まで34.8%、深セン成分指数は7,011pt(同)⇒10,541pt(同)まで50.3%上昇。ところが、5月5日のトランプ米大統領による"ツイッター砲"(米追加関税第3弾)を発端に、急速に売りが膨らんだ。
その後は、6月の米中首脳会談後に再開した米中貿易協議、8月以降の中国の政策的後押し(消費促進策や預金準備率及び最優遇貸出金利(LPR)1年物の引き下げなど)、12月の米中の「第1段階合意」などがあり、一進一退から緩やかな右肩上がりの展開。通年(18年末~12/18まで)では、深セン成分指数は約42%上昇、上海総合指数は約21%上昇と、まずまずのパフォーマンスだった。
香港市場は、米中摩擦の懸念を受けやすい展開となり、また6月以降のデモ騒動も相場の足かせ材料となった。ただ、ハンセン指数は足元で、現地で目安となる250日移動平均線を上回って推移しつつあり、やっと落ち着いてきた感がある。
20年は小動き見通し、海外マネー流入が後押し材料
20年の相場見通しは、「19年末の上昇が継続し、本格的に戻りを試す1年へ!」と行きたいところだが、様々な不確定要素を抱えるのも事実。総じて小動きから緩やかな上昇という展開を予想する。上海総合指数は3,300pt回復を当面の目標値と見るが、これをすんなり超えてくれば、米中貿易摩擦が本格化する前の高値3,587pt(18/1/29)も視野に入るかもしれない。ハンセン指数は19年高値の30,280pt(19/4/15)の回復が先決となろう。
中国経済は、20年は6%前後の成長が見込まれるが、これを減速と見るか、「新常態(ニューノーマル)」下の適正水準と見るかは意見が分かれるだろう。それよりも設備投資やインフラ投資、消費の伸びなどの個別指標に着目していきたい。デレバレッジ(過剰債務削減)政策の一巡が意識されれば、相場の後押し材料になりそうだ。また、ストックコネクトを通じた海外投資資金の流入がさらに増大すれば、市場の好材料として強く意識されると思われる。
中国市場総じて小動きの展開になると予想。2019年の高値回復がポイントに
香港市場内外情勢が落ち着き出遅れ修正の動きとなるかに注目
ストックコネクト「双方向の資金流入加速」がキーワードに
ロボットやICが復調気配
投資戦略を語る上で、まずは新興・ハイテク産業のデータを見てみたい。新エネルギー車、産業ロボット、IC(半導体集積回路)の生産高(量)は16~17年にかけて軒並み2桁超の高い成長率を誇っていた。「中国製造2025」政策の後押しを受け、産業の高度化やオートメーション化の波に乗った形だ。だが、ロボットとICは18年中頃から月次ベースでマイナス成長に陥り、購入補助金の削減で販売不振に陥った新エネルギー車も直近は前年同月割れが続く。
これがハイテク・IT株の軟調な動きにつながったとも見られるが、在庫消化の一巡や企業の投資意欲の改善などに伴い数字は上向き始めている。ロボットは19年10月に前年同月比1.7%増と18年8月以来のプラス成長。ICは19年9月から2桁増が続く。製造業全体の"カネ回り"がじわり改善し、設備及び生産向けの投資が復調しているとも言えるだろう。
「質の高い」発展を指向、インフラ投資は継続
投資のヒントとしては、19年12月に開催された中央経済工作会議が参考になる。同会議で決定した経済運営方針は、翌春の全国人民代表大会(全人代)でも踏襲されるのが常だからだ。具体的政策の方向性は6項目(右表参照)。このうち、4番目の「積極的財政政策と穏健な通貨政策の維持」と、5番目の「質の高い経済発展の推進」に注目したい。
前者では財政の質の向上が強調された。具体的には、先端製造、民生建設、インフラ施設などの分野に資金を供給し、産業と消費の「ダブル・レベルアップ」を図るという。これまでは基本的な生活インフラの拡充に重きが置かれてきたが、今後はより的を絞った、市民生活のクオリティー引き上げを重視した投資を強化していくということだろう。
後者ではイノベーションと改革開放を両輪とした発展に力を入れる。戦略産業の発展、設備更新や技術改造投資の拡大支援、国際的競争力を持つ先進的製造企業群の形成、デジタル経済の発展などがその骨格となる。また、観光業、スポーツ・健康産業、通信ネットワーク、都市配管網、駐車場、コールド物流拠点などの発展もうたわれた。
このほか、インフラ投資も引き続き注目されるだろう。中国政府は19年9月の国務院常務会議で、地方政府の専項債(特別債)の発行加速を決め、インフラ強化の全面支援方針を示した。同11月には、20年度の専項債発行枠のうち1兆元分の年内繰上げ起債(いわば「前借り」)を容認。年末年始のインフラ事業の実行を確保し、雇用の確保と経済の下支えを狙うためとされる。翌年度の財政運営が厳しくなる可能性はあるが、足元のインフラ投資の伸び率は前年比3~4%程度と低水準が続いているため、背に腹は代えられないということか。もっとも、事業の規律管理は李克強首相自らが念を押しているため、これまで散見された野放図で盲目的な投資にはならないだろう。資金がうまく行きわたれば、ゼネコンや建機メーカーなどに恩恵がもたらされそうだ。
なお、前述の中央経済工作会議では「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」との文言が引き続き盛り込まれた。不動産規制の緩和による景気刺激策は当面はないようだ。
2020年はスマートに行こう!
これらを踏まえ、20年の中国株の投資対象として「スマート」というキーワードを提唱してみたい。スマートシティ、スマート家電、スマート製造、スマートインフラ......。中国語でスマートは「智能」或いは「智慧」と言うが、中国ではこの2文字を冠した企業や施設、サービスが至る所で見られる。言葉の定義を考えると難しいが、簡単に言えば「生活や仕事をより便利に楽しくする」という意味となろう。ITやハイテクを駆使した「スマートライフ」の追求。前述した産業の高度化やオートメーション化、そして質の向上といった、中国経済がこれから進むべき道にも合致するワードである。
中国ではテック系企業の御三家として「BAT」(百度、アリババ、テンセント)が有名だが、「TMD」と称される企業群もある。これは、ニュースアプリの今日頭条(Toutiao)、フードデリバリー大手の美団点評(メイトゥアン、03690)、配車アプリ最大手の滴滴出行(DiDi)を指す。さらには、スマートシティ開発を支援する「PATH」という呼称も耳にするようになった。ピンアン(平安)、アリババ、テンセント、ファーウェイの四大企業の頭文字を取ったものだ。前者2社は人工知能(AI)を駆使してスマートシティのプラットフォームを開発し、テンセントは微信(WeChat)を活用したインターフェース開発、ファーウェイは通信インフラの構築に注力する。
スマートシティのコンセプトは「都市機能の最適化・相互接続・都市の状況把握」とされ、AI、IoT、ビッグデータ、5Gなどの技術を応用し、都市の交通、エネルギー、教育、医療などの最適化を行うことを意味する。具体的には、例えばアリババは監視カメラで収集した交通渋滞や事故などを自社クラウド上で管理・分析し、警察や医療機関への通知、臨機応変な信号変換に生かしている。テンセントは微信上での交通機関乗車時のQRコードの発行、各種公共料金の支払いから社会保険の申請、交通違反の罰金支払いまで、生活シーンのあらゆる手助けを提供している。これらをシームレスに進めるためには、5Gなどの次世代通信網の整備も大事になってくるだろう。また、平安健康医療科技(01833)が展開する医療アプリ「平安好医生(ピンアン・グッド・ドクター)」内で病院予約やオンライン問診などを手軽に行える。生活が便利になるほど時間の無駄が省け、空いた時間を自分の趣味などに充てることができ、ライフスタイルの「質の向上」にもつながるだろう。
スマートシティの取り組みは第13次五カ年計画(2016~20年)に明記されていた。20年に検討が本格化する次期五カ年計画にも引き続き盛り込まれることが予想され、中長期にわたる投資テーマになると考えられよう。
(上海駐在員事務所 奥山)