今年の政策方針を決定する全人代では、成長目標が+5.5%に決まり、市場予想の+5.0%を上回った。大会後にはゼロ・コロナ政策の緩和も示唆された。ウクライナ問題等で景気に下押し圧力がかかる中、政府は景気の安定を死守する方針へ舵を切っているようだ。
中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3月5~11日に開催された。冒頭に李克強首相が22年の政府活動報告を発表し、今年の政策について説明した。
今年の成長目標は+5.5%
政府活動報告の中で最大のポイントは、今年の成長目標が+5.5%と、10~12月GDP成長率の実績(前年同期比+4.0%)を大きく上回り、市場予想の+5.0%さえも上回ったことであろう。その年のGDP成長率は概ね政府目標を上回る傾向にあることから、今年のGDP成長率は+5.5%以上になると見込まれ、政府が一段と成長押上げに力を入れることがうかがえる。具体的な下支え政策としては、中小企業を対象とした2.5兆元相当(GDP比2.2%)の減税や税金の還付で、雇用と投資の拡大を図るようだ。また、電気自動車に対する支援策や農村部での省エネ家電の買い替え支援策等が挙げられた。
ゼロ・コロナ政策の緩和へ
ゼロ・コロナ政策を維持しながら、前述の政策のみで+5.5%以上の成長を達成するのは難しいと考える。全人代ではゼロ・コロナ政策の変更等には触れなかったが、全人代以前には中国政府内や専門家からもゼロ・コロナ政策の緩和を示唆する意見も報じられていた。3月14日には中国本土で新型コロナの新規感染者数が5154人と20年3月以来で最多となる中、習近平国家主席は17日に党中央政治局常務委員会を開催。そこで同主席は「最小のコストで最大の防疫管理効果を達成し、経済・社会への影響を最低限にとどめる」方針を暗に示唆した。感染が拡大した深セン市は14日から都市封鎖が開始されたが、21日には解除。20年の武漢では、感染者数が多かったこともあり2カ月半の都市封鎖がなされたことと比べると、深センの場合は非常に期間が短い。政府は今後も感染抑制に軸足を置きながらも、手探りで新型コロナの感染抑制と経済に対する影響とのバランスを測り、ゼロ・コロナ政策の緩和を進めていくとみられる。
ネット規制強化は法の順守に重点か
産業政策としては、引き続きIoT(モノのインターネット)を推進する方針が示された。具体的には、政府サービスのスマート化、スマートシティやデジタル農村、5Gの応用等の政策が並ぶ。そのIoTの推進で中心的役割を担うインターネットのプラットフォーマーに対する規制については、21年全人代では「反独占を強化し、資本の無秩序な拡大を防止し、公平な競争の市場環境を断固として維持する」と示された。一方、22年は「独占や不当競争に対する抑制を強め、公平で秩序だった市場環境を維持する」とし、表現が21年程厳しくないことがわかる。政府は21年の規制強化の成果にある程度満足しているとみられる。今後は新たな規制強化から法規の遵守に重点が移っていくと推測される。
製造業の競争力強化
IoTにはスマート工場等、既存工業のレベル向上も含まれる。22年は全人代の中で、「製造業の核心的競争力の強化」として、サプライチェーンの安定維持に加え、産業インフラの再構築を始動し、先進製造業の発展を進める方針が示された。そのために、金融機関から製造業へ中長期の融資を増加させる方針のようだ。実際、1~2月の製造業の設備投資は前年同期比20.9%増(12月:前年同月比11.8%増)と拡大。特に、電子機器、コンピューター、一部機械等の分野では同30%以上の拡大となった。今年はスマート工場の建設元年になる可能性もあろう。
政府は成長死守へ
2月24日のロシアによるウクライナへの侵攻開始を受け、資源や穀物価格が上昇し、中国への景気下押し圧力は強まっている。今秋に共産党大会を控え景気の安定が最重視されるだけに、ゼロ・コロナ政策緩和の時期も若干前倒しになった印象がある。今後も景気が下振れする可能性が高まれば、追加の景気下支え策が発表されると見込まれる。
(マーケット支援部 白岩、CFA)