ウクライナ問題は長期化の様相を呈している。その中で、中国はロシアからは武器供与等の支援要請があったとみられ、一方で米国からは支援した場合は制裁すると警告されている。ロシアと同様に中国にも制裁が課された場合、中国経済への影響は甚大とみられる。今秋に共産党大会を控え、景気安定を最重視する中国政府にとって、何もしないことが最も得策なのかもしれない。
ウクライナ問題の推移
2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻で、ロシアは当初2日間以内にキエフが陥落すると考えていたようだが、ウクライナ軍が予想以上に健闘、欧米からの軍事支援もあり、長期化しつつある。
先進諸国はウクライナ支援を強めており、EU、米国及び同盟国はウクライナに対し対戦車ミサイル等の軍事支援を行うと同時に、経済制裁を強めている。ドルの国際決済機関であるSWIFTからロシア中銀を含めた複数の金融機関を除外しロシアを国際決済から締め出した。これにより、ロシアは外貨不足に陥りドル建て債の利払いも滞る可能性がある。そうなれば最終的には国際金融から資金調達が難しくなろう。また、米国はロシアからの原油輸入を禁止。ドイツは天然ガス輸入の半分以上をロシアに依存しているが、ロシアからの新規のガス・パイプラインであるノルドストリーム2の承認を取り消し制裁対象とした。また、多くの欧米企業がロシアから撤退、または業務を停止した。
一方、新疆ウイグル問題等を背景に各国首脳が北京五輪の開会式出席を外交ボイコットとして拒否する中、ロシアのプーチン大統領は出席した。2月4日に中露首脳会談が開催され、「中露の国家間関係は冷戦時代の政治軍事同盟よりも上位のものであることを両国は再確認する。両国が協力する上で『禁じられた』分野はない」との共同声明が発表された。3月2日に行われた国連のロシア非難決議では、193カ国中141カ国が賛成したものの、中国は棄権しロシア批判を回避した。
中国への影響:燃料や穀物価格の高騰
ロシアとウクライナは、エネルギー等の鉱物資源や小麦等の穀物で、世界屈指の生産大国であるため、ロシアの侵攻が始まってからは一次産品価格が急騰している。中国はトウモロコシ輸入の多くをウクライナに依存しているとみられるが、戦火でウクライナからの輸入が見込めないため、米国等の他国から調達を増やしている。ロシアからも原油、天然ガス、小麦の輸入を拡大しており、中露の良好な関係を考慮すると、ロシアからは安価で資源や小麦を得ている可能性もあろう。
中国への影響:欧米からの制裁の可能性
3月11日にロシアが中国に武器供与などの軍事支援を要請していたと報じられ、14日に米国は「中国がロシアに軍事的・経済的援助を行う意思を示した」と発表した。同日に開催された米中高官による会談では、米国は中国に対し「ロシアのウクライナ侵攻を支援した場合『厳しい結果が待っている』」と警告したようだ。
中国は輸出依存度が19%(21年、以下同様)で、輸出の34%が日米欧を中心とした外国企業による輸出である。仮に、中国が欧米からロシアと同様の制裁を受け、外国企業が中国から撤退した場合、輸出の減少はGDPを7%押し下げる要因になるとみられる。また、輸出全体の約4割が日米欧向けで、韓国や豪州等を加えると半分に迫る。このため、中国の製品に対し主要国が規制を課す場合、規制を課す国々の経済に対する損失も大きいが、中国への損失も少なくないとみられる。
米国は現在、一部中国企業に対し、米国製品の輸出、または米国製品で作った製品の輸出を禁じている。中国半導体最大手のSMIC(中芯国際集成電路製造、香港00981)に対しては、先端技術の半導体を製造するのに必要な米国製品の輸出、再輸出、国内移送を原則不許可としている。米国は中国の半導体企業がロシアに半導体を輸出した場合、「閉鎖に追い込む」と警告。半導体は、IoT(モノのインターネット)や電気自動車ばかりでなく家電やエンジン自動車にも利用されるため、米国から半導体や半導体製造に必要な製品やソフトの供給が全て禁止された場合、中国で製造される家電、自動車等、広範な製品群の生産に影響するばかりでなく、将来の技術開発にも支障をもたらすと考えられる。
ウクライナ問題は今後も混迷か
ロシアとウクライナの軍事力には大きな差があり、ウクライナの総兵力はロシアの4分の1以下、軍事費は10分の1に留まる。また、ロシアがジュネーブ条約で禁止されている燃料気化爆弾を既に使用していること等を考慮すると、ロシアは今後、大量破壊兵器を使う可能性も否定できず、ウクライナ問題は今後も混迷を続けよう。
何もしないことが最も得策か
中国はロシアとウクライナ両国と友好関係を結んでいるため、中国に停戦仲介を期待する声は高まっている。中国がウクライナ問題を停戦に導くことができた場合、中国の国際的地位は高まり、米国の中国に対する追加制裁も回避でき、習近平総書記は今秋に開催予定の共産党大会で今後も現在の地位を維持できよう。しかし、仲介には多くの外交経験が必要と考える。中国のように発展途上国として、主に国内問題に注力してきた国には荷が重いように思われる。実際、今回のウクライナ問題で、中国は事前にロシアによるウクライナ侵攻を知っていた可能性があるにもかかわらず、ロシアとの無制限の協力関係を発表し、侵攻が始まってもロシア批判を控え、むしろ対ロ制裁に踏み切った欧米を批判してきた。その後、ウクライナ問題が長引き人的被害が拡大し、また、米国から対中制裁の圧力が高まるにつれ、中国はウクライナへの人道支援や欧米との協議を始め、スタンスを中立へと戻しつつあるように見える。
中国のライバルは米国である。中国の経済力が高まるに従い、両国の摩擦は更に高まろう。その中で、ロシアは米国から距離を置いており、中国にとって長期的なパートナーになりえよう。中国がロシアを重視することは必然かもしれない。しかし、一方で、米国による追加制裁は、習氏の地位を危うくするだけでなく、中国の将来性を脅かしかねない。ウクライナ問題では中立を維持し「何もしないこと」が中国にとって最も得策と言えるかもしれない。
(マーケット支援部 白岩、CFA)