米大統領選を11月に控え、米中関係が悪化している。米国は中国企業、特に通信、半導体等のハイテクを中心に規制を強めている。足元では、中国をイランと同様に扱い始めたことから、今後も制裁が強化されると推測される。通信大手のファーウェイについては、規制が厳しいため、今後、業績への影響が懸念される。ただし、規制対象となっている他の中国企業は米国市場への依存が低く業績への影響は限定的と考える。
米中関係悪化の背景
米中関係の悪化が続いている。冷戦終結後、米国は唯一の超大国であったが、ここにきて中国の経済や技術力が躍進し、米国の地位が脅かされつつあるようだ。また、2017年の共産党大会で習近平国家主席が21世紀半ばまでに世界の中でトップレベルの国力と国際的影響力を持つと宣言したことから、米国が警戒感を高めたとみられる。一方、米国では貧富の差が拡大し、ジニ係数は0.4を上回り社会的に不安定な状態にある。この米国民の不満の矛先が、米国へ輸出を拡大した中国へ向かったことも米中関係悪化の背景として挙げられよう。実際、中国に対し好感を持たない人の比率は今年3月で66%、米国で新型肺炎の感染が拡大した現在では更に高まっていよう。このため、11月の大統領選で劣勢を強いられたトランプ大統領が「中国たたき」を選挙戦略の1つとして利用しているとも考えられる。
米国による対中制裁
米国は、貿易、人民元レートの設定、知的財産権保護、中国市場へのアクセス、技術移転、産業政策、人権問題(香港を含む)等、様々な分野で中国を批判し、制裁を実施。主な制裁としては、中国製品に対する追加関税と、中国企業に対する規制がある。制裁対象の中国企業は、通信や安全保障に関する企業、そしてそれを支える半導体等のハイテク企業が多い。中国通信機器最大手の華為(ファーウェイ)等5社に対しては、製品を使用している企業も今年8月からは米国の政府調達から外されることになった。また、今年8月に、トランプ大統領は国際緊急経済権限法(同法に基づきイランや北朝鮮を制裁)に基づき、中国のバイトダンス(TikTok)やテンセント(ウィーチャット)が国内で取引することを禁止した。同大統領が中国から譲歩を求めるために実施したとも考えられるが、米国が中国をテロ支援国と同様の扱いをするならば、規制の対象が今後も更に拡大することも考えられる。
(マーケット支援部 白岩CFA)
米制裁による中国ハイテク企業への影響
ファーウェイは、米制裁を受ける中でも事業拡大を続けている(20年1~6月の売上高は前年同期比13%増)。ただ、8月17日に米政権が米国の技術が絡むすべての半導体を禁輸対象にすると発表したため、同社経営への打撃は一段と深刻化する見通しだ。同社は、内製化・国産化など代替案を加速しているが、時間がかかると見られる。米制裁で大きな低下がみられるファーウェイの海外市場シェアは、小米集団(01810)などライバルが取って代わろう。スマホ市場全体の需要はほぼ変わらないため、舜宇光学科技(02382)など部品メーカーへの影響は限定的とみられる。
杭州海康威視数字技術(002415)など米国の制裁対象に指定されているその他の中国企業の直近業績も概ね堅調だ。ピンチをチャンスに変えるべく、米制裁に対抗し、中国企業は独自技術の開発を加速している。また、中国当局も証券市場の改革等を通じてハイテク企業への支援を強化している。19年7月、上海証券取引所にハイテク企業向け「科創板」を新設(開設1年で140社が上場)。また20年8月4日、国務院はIC(集積回路)産業、ソフトウエア産業の発展を幅広く支援する新政策を発表するなど、対米依存の低減、国産化率の向上を促していく狙いだ。
中国のハイテク株は好パフォーマンス
米中対立の影響を受け、中国の株式市場は18年に大きく値下がりしたものの、19年以降は、概ね上昇トレンドを続けている。その背景としては、①企業業績への影響が限定的だったこと、②国産化の動きの拡大、③当局の政策支援などが挙げられる。日・中・米の主要株価指数の年初来上昇率をみると、中国のハイテク銘柄で構成されるハンセンテック指数が55%、深セン成分指数が31%など、他の主要指数を上回る良いパフォーマンスを上げている(8月24日時点)。
(東洋証券亜洲有限公司 キョウ)