中国で経済活動が再開中だ。旅行や娯楽産業も徐々に回復し、消費市場のエンジンとして期待される。商品販売面ではネット比率が25%を超えるなど、オンライン消費の存在感がますます高まっている。
映画と旅行が"解禁"
「映画がついに戻ってきた!」――。ネット上で歓喜の声が上がっている。7月20日、中国各地の映画館が営業を再開した。新型コロナの感染拡大を受け、1月24日から全面営業停止だった映画館。製作・撮影も中断し、業界全体が深刻なダメージを受けている。「各回定員の30%を上限」「放映本数は通常の半分」などの条件付きだが、約半年ぶりの再開は久しぶりの明るいニュースだ。
その1週間前の7月14日には、旅行の規制緩和も発表された。1月から停止されていた省(自治区、直轄市)を跨ぐ団体ツアーや「航空チケット+ホテル」のパッケージ販売が解禁され、観光地の収容可能人数の上限が30%から50%に引き上げられる。夏と秋の観光シーズンに向けた産業テコ入れ策として期待が高まっている。
中国経済を支える消費市場。新型コロナが小康状態となった4月頃から徐々に活気を取り戻してきた。各地で消費券(デジタルクーポン)配布などの消費喚起策も目立つ。上海ディズニーランドをはじめとした観光施設も営業を再開し、人の移動を伴う経済活動が動き始めている。
しかし、消費者は慎重姿勢を崩していない。遠距離旅行を控えたり、外食を極力減らすという地元市民の声をよく聞く。その懸念を裏付けたのは、6月に起きた北京の"ソフトロックダウン"。同市では6月11日、57日ぶりに新規感染者が確認され、16日から緊急対応レベルを引き上げた。わずか10日前の6日にレベルが引き下げられ、市民の間には楽観ムードが漂っていた中での事態急変。各社で在宅勤務が復活し、外食や旅行、出張などのキャンセルが相次いだ。端午節連休(6/25~27)の消費書き入れ時を前に冷や水が浴びせられた。
端午節3連休の中国国内旅行者数は延べ4880万9000人で、前年同期の50.9%の水準。5月の労働節連休時より回復ピッチは2.7pt鈍化した。また、観光収入は31.2%水準の122億8000万元にとどまった。中国屈指の観光地である甘粛省敦煌では、通常は1カ月前には完売状態の莫高窟の入場チケットが当日でも手に入るほど。夜市などの観光スポットは閑散としており、街では開店休業状態のホテルやレストランが目立った。
それでも経済は前に進む。7月末には上海市でアジア最大級のゲームイベント「チャイナジョイ」が開催され、9月には北京モーターショーが予定されている。秋には国慶節連休(10/1~8)が控え、11月には今年で第3回目となる中国国際輸入博覧会が開幕する。市民のマスク姿は相変わらずだが、経済活動は着々と通常モードへ移行中だ。
ネット比率が初めて25%超
中国の6月の社会消費財小売総額は前年同月比1.8%減で、1~6月期でも前年同期比11.4%減だった。一方、ネット通販は好調だ。1~2月期は同3.0%増に減速も、1~6月期は同14.3%増まで回復。「小売全体に占めるネット比率」は6月に25.2%となり、初めて25%を超えた。オンライン消費の存在感が今まで以上に高まりつつある。
ネット通販大手の京東集団(JDドットコム、09618)が行った販促イベント「618」セール。期間中(6/1~18)の総取引額は過去最高の2692億元(約4兆円)に達し、前年実績(2015億元)を34%上回った。人気商品は、食品、ヘルスケア製品、キッチン用品、ベビー用品、化粧品など。同時期にセールを行った蘇寧易購集団(002024)やアリババ集団(09988)の売上も好調だった。
分野別で見ると、食品と日用品の戻りが顕著だ。いずれも年初からプラス成長を保ち、食品は19年通年の伸び率を上回るほど。衣服は前年比マイナスが続くが、消費者は"不要不急"の買い物は避け、生活必需品の購入を増やしたということだろうか。また、1~6月期の宅配取扱件数は前年同期比22.1%増の338億件に上った。1月の16.4%減、1~2月の10.1%減からV字回復。昨年通年の25.3%成長並みのペース回復も期待される。
スーパー大手の永輝超市(601933)は、20年1~3月期で3割超の増収増益と好調だった。同社は京東と提携しネット事業を強化中で、同四半期のネット販売は同2.3倍の20億9000万元に上った。全体に占める比率は7.3%に過ぎないが、前年同期の2.8%から大きく上昇。「コロナ禍の巣ごもり需要」をうまく捉えた企業と言えるだろう。
(上海駐在員事務所 奥山)