新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)の蔓延で経済や社会活動が制限される中、「宅経済(おうち経済)」が注目されている。中国ならではのビジネスやサービスがさらに浸透するきっかけになりそうだ。
進むオンライン教育
AI大手の科大訊飛(002230)は、2月10日からの約10日間において、同社のオンライン学習ソリューションを通じて教師3万人を支援し、8万回の授業生中継を行ったとした。これは、中国政府が掲げる「授業は止めても学習は止めない」というスローガンに応じたもの。教師向けの授業用教材や練習問題の提供、宿題のオンライン提出や答え合わせ、復習までを一括展開する。同社が得意とするビッグデータ、AI、クラウドコンピューティングなどを活用。生徒はスマートフォンやタブレットで授業を受け、課題を提出する。授業の繰り返し再生が人気という。
同社は教育プラットフォーム「科大訊飛智慧課堂」を独自開発し、教育分野に注力してきた。教室内でも、教師は手元のタブレットを使って授業の要点を電子黒板に示し、生徒も各自のタブレットでメモを取り、問題に答えることができる。また、自習用に的を絞った「科大訊飛学習機」というタブレットも投入。このような取り組みが、各地で休校が相次ぐ今回のような緊急時に活きてきたと言えよう。中国のオンライン教育市場全体を見ても、2019年6月末時点のユーザー数は2億3200万人に達している。
ハードル低いスマホでのコミュニケーション
アリババ集団(09988)の企業向けオフィスツール(アプリ)「釘釘(DingDing)」。春節(旧正月)明け後の2月3日には、1000万社以上が同アプリを在宅勤務用に使った。ユーザー数があまりにも多かったため、ネット上で制限がかかったほどの人気ぶり。釘釘は、テンセント(00700)の微信(WeChat)に比べて、よりビジネスに特化したクローズ型SNSとされる。グループチャットからオンライン会議、各種ファイル交換などをスムーズに行うことができ、紙ベースの事務処理からクラウドとモバイル時代にシフトする分岐点を狙ったサービスだ。一部の学校では、保護者用のコミュニケーションツール(事務連絡や宿題のお知らせなど)として使われている。
中国では、生活や仕事の各シーンでWeChatを使ったグループチャットが盛んに行われており、ネットやスマホ経由で連絡し合うハードルは元々低い。かしこまったやり取りだけではなくフランクな会話も多い。そのため、資料などの秘匿性の問題はあるだろうが、ことコミュニケーションに関しては在宅でも比較的スムーズに行われるようだ。
阿里健康信息技術(00241)や平安健康医療科技(01833)はオンライン診断サービスを展開。フードデリバリーでは美団点評(03690)、ネットスーパーでは永輝超市(601933)などが注目されている。03年の新型肺炎SARS蔓延は、ネット通販が勃興するきっかけになったと言われる。今回の騒動を通じ、ネットを活用した「宅経済」がさらに成長していく可能性もあるだろう。
(上海駐在員事務所 奥山)