中国政府は新型肺炎騒動後の景気浮揚を狙い、各種政策で布石を打ち始めた。まずは金融や財政の政策総動員で資金の目詰まりを防ぎ、中小企業などの苦境を救う。また、産業面では自動車の販売支援策に加え、次世代の経済のけん引役とされる新型インフラへの注力姿勢が鮮明になっている。中心となるのは、5G、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)などの分野だ。
流動性供給と企業負担の低減目指す
中国政府による金融面での施策は、中国人民銀行(中央銀行)による公開市場操作(オペ)での資金供給(2/2、1兆2000億元規模)、「中期流動性ファシリティ(MLF)」による資金供給(2/17、2000億元規模)などが挙げられる。3月13日には預金準備率の引き下げを発表し、5500億元の資金を市場に供給。経済全体と株式市場を一定程度下支えした。
財政面では、税金や社会保険料の減免が行われている。2月18日に開催された国務院常務会議では、社会保険料(年金、失業、傷害)の企業負担分の減免が決定(2~4月或いは6月の時限措置)。保険料負担は計5000億元以上軽くなる見込みだ。2月25日には、中小企業の増値税(付加価値税)を湖北省内では免除し、その他の地域では税率を3%⇒1%に引き下げることが決定した(3~5月の時限措置)。
中国政府はここ数年、供給側改革の一環として、減税・費用削減などを通じた企業コストの低減を進めてきた。2017年に1兆元超、18年に1兆3000億元を削減。19年は2兆元超を削減したが、これは国内総生産(GDP)の2%強に相当し、通年のGDP成長率を0.8pt押し上げたという。今年は、19年の大規模減税(増値税率の引き下げ)の反動から、企業負担の大きな低減はないとの見方もあったが、新型コロナ禍で状況が一変。政府は減税という"積極財政"に出ざるを得なかったとも言える。
このほか、「消費券」と呼ばれる商品券の配布も始まった。地方自治体レベルで行われているため総額は不明だが、南京市(江蘇省)は3月15日から3億1800万元相当の商品券を配り、済南市(山東省)は2000万元相当、寧波市(浙江省)は1億元相当を発行した。青島市(山東省)は、テンセントの「微信(WeChat)」経由で1000万元相当の電子商品券を配布。「スマホ上でのくじ引きによる割引券配布」というユニークなスタイルのものだ。
新型インフラを後押し
中国政府は3月に入り産業政策を矢継ぎ早に出している。その代表格は、国家発展改革委員会など23部局が共同でまとめた消費振興策だ(3/13発表)。同政策の中では、自動車の販売支援策(ナンバープレート枠の適切な拡大を奨励)のほか、「超高画質」「VR(仮想現実)」「ウェアラブル」など次世代製品の発展加速などがうたわれた。また、国債や地方政府債を個人投資家向けに発行する頻度を高めて「財産性収入」の安定と増加を目指す方針も盛り込まれた。今後、具体策の発表が待たれる。
一方、特に強調されているのは新型インフラだ。今年に入り毎月、政府や共産党の会議で言及されており、事実上の国策に昇華した感もある。3月4日に開催された中央政治局常務委員会(中国共産党の最高意思決定機関とされる)では「5Gネットワーク、データセンターなど新型インフラの建設ペースを上げる」ことが決定した。これを受け、各部門や政府幹部から新型インフラというキーワードが頻繁に出てくるようになった。
中国でインフラと言えば、これまで高速道路や発電所、ダムなどのいわゆる「箱モノ」が中心だったが、これからは社会生活やビジネスをより便利・効率的にするという観点が重要になってくるだろう。新型インフラは「5Gネットワーク」「特高圧」「都市間高速鉄道&都市間鉄道」「新エネ車充電パイル」「ビッグデータセンター」「人工知能(AI)」「工業インターネット」の各分野からなる。データセンターの拡充はクラウド事業の後押しにつながり、5GやAIを活用したスマート工場の発展も進むだろう。各分野は全てリンクしており、スマート社会やスマートシティの構築も進むと見られる。株式市場でも息の長い投資テーマになっていきそうだ。
(上海駐在員事務所 奥山)