中国発祥の蒸留酒である白酒(パイチュー)。独特の芳醇な香りと50度以上の高いアルコール度数が特徴で、宴会時は「カンパイ!」と連呼しながら杯を重ねることも多い。株式市場でも白酒関連株はブルーチップ銘柄として注目されており、外国人投資家にも人気だ。我々は今回、中国内陸部の貴州省と四川省に赴き、白酒業界の代表的な2社を直接取材してきた。白酒世界の"リアル"に迫る。
マオタイ人気の背景は?
「高く買い取るよ!」――。貴州省の山奥にある遵義茅台空港に降り立つと、到着ロビーで地元市民から次々と声をかけられた。いきなりの洗礼に一瞬戸惑う。聞けば、飛行機での到着客に限り、定番の「53度飛天茅台酒」を定価1499元で購入できるキャンペーン期間中という。搭乗券と引き換えに1人2本まで購入可能。実勢価格は3000元ともされるから、かなりお得だ。旅客は自分用や贈答用ではなく転売目的で購入。それをすぐに空港で地元の"転売ヤー"に売りさばく。そしてさらに転売され......。茅台酒の需給ひっ迫状況と白酒取引のリアルをいきなり見せつけられた。
空港から車で約1時間。貴州茅台酒(600519)が本社を構える茅台鎮は、人口わずか1万7000人の小さな町だ。300余りの酒蔵が軒を連ね、高台から町全体を見渡すと至る所から燻煙が立ち上っている。中国では「酒都」として有名だ。
白酒は香りによって7分類される。茅台酒は発酵を繰り返して残り香が特徴的な「醤香型」の元祖と言われる。天然の芳香に病み付きになる人も多い。
同社は、原料の高粱(コーリャン)は貴州省産だけしか使わないというこだわりを貫く。また、同地の湿潤気候も醸造過程の"主人公"である微生物に適しているという。
茅台酒の人気はすこぶる高い。IR担当の蘇厚飛氏はこれについて「中国で『国酒』と言えば茅台酒。このブランド力で品質への信用や高い評価を得ている」と強調する。生産から出荷まで最低5年間かかり、今後数年間は大きな増産が期待できないことも希少性を高め、市場価格を押し上げる。ハイエンド白酒市場(800元以上)での同社シェアは6割以上とされ、ほぼ独壇場だ。1972年の日中国交正常化交渉の宴席で、時の周恩来首相と田中角栄首相が杯を交わしたのも茅台酒。その乾杯の写真は、同社が建設した「中国酒文化城」に誇らしげに飾られている。
同社は2018年まで2年連続の二桁増収増益で、粗利益率は90%前後を維持。中国には1445社の白酒企業(年商2000万元以上)があるが、同社だけで総売上高の13.7%、純利益の27.5%を占める(18年)。11月25日時点の株式時価総額は1兆4849億元で貴州省の18年GDPの1兆4806億元を上回る規模だ。
ハイエンド路線を強化する五糧液
四川省の省都・成都から高速鉄道で2時間弱。人口約450万人を数える宜賓(ぎひん)市を訪れた。この街に本社を置く宜賓五糧液(000858)は、1958年創業の地方国有企業。こちらは、酸味とややフルーティーな香りがある「濃香型」の白酒を醸造する。一言で言えば「飲みやすい」タイプだ。
「五糧液」という名前は、高粱、もち米、うるち米、小麦、トウモロコシの5種類の穀物を原料としていることから付けられたという。アルコール度数35度から72度まで様々なタイプを展開。同社は、中国の「The State Quality Administration Award」(国家品質管理賞)を3回獲得した唯一の白酒企業だ。食品の安全性と品質管理を重要視してきた結果である。
我々が訪問したのは、敷地面積12平方キロを誇る巨大醸造基地。車で案内された施設内最大の建屋は、全長1600m×幅400mという規格外の大きさだ。ここで特別に「拌料」という原料を撹拌する工程を見せてもらった。屈強な男性従業員がスコップやほうきのような器具を手に持ち、黙々と撹拌作業を行っている。約3700人が二交代制で働くこの現場。「見せ物ではない」ということで写真撮影はNGだったが、作業の横でアルコール度数72度の原酒が振る舞われた。小型カップで一気にグビリ。強烈で野性味のある液体が喉を刺激し、身体が熱くなってくる。
証券事務代表の李欣憶氏は、「良い白酒は、不純物がなく、飲みすぎても翌日は頭痛など二日酔いにならないのが特徴」とし、同社の品質管理の高さをアピール。「匠人精神」という言葉も使いながら、自社の職人仕事への敬意を表していた。
同社には白酒醸造用の穴蔵の池(窖池)が3万2000カ所ある。そのうち、600年以上の歴史を誇るのが59カ所、300年以上のものも168カ所という。最も新しいものは20年前にできたものだ。中国には古くから「千年老窖万年糟、酒好还得窖池老」という言い伝えがある。これは「窖池が古ければ古いほど、そこで造った酒は美味しい」という意味。匠の技と歴史を重んじる同社の方針にも相通ずるものがあるだろう。
同社が指向するのは高級路線。18年の酒類販売量19万トン超のうち、ハイエンド製品は約10~15%を占めた。1本800元以上の高級白酒の市場シェアは25%前後だという(前述のように茅台酒は約6割)。価格戦略も重要だ。19年6月発売の「第八代五糧液」(52度、500mlタイプ)は、出荷価格を従来の789元から889元に引き上げた。03年投入の「第七代」に比べて口当たりがさらにまろやかで飲みやすいという。さらに、最高級製品の「五糧液501」(仮称)を研究開発中。販売価格やパッケージは未定だが、早ければ来年中に上市する予定だ。新製品の投入により高級白酒市場でさらなる勢力拡大を狙う。
同社は17年から18年にかけて前年比40%前後の増益を達成。19年12月期も39%前後の増益が見込まれ、過去最高益を更新しそうだ。ただ、粗利益率は78.2%(19年6月中間期)で、貴州茅台酒の90%前後と比べるとまだ伸びしろがある。中国では、中間層・富裕層の拡大(15年5300万世帯⇒20年9870万世帯と予想)や、「質の向上」を重視するライフスタイルが浸透し、ハイエンド製品が受け入れられる素地が広がりつつある。同社のビジネスチャンス拡大はこれから本番を迎えそうだ。
(マーケット支援部 陳)
(上海駐在員事務所 奥山)
※文中の写真は全て東洋証券撮影