中国の今年7~9月のGDP成長率は前年同期比6.0%と、1992年の四半期GDP統計開始以来、最低の成長率となった。ただ、9月の経済指標は概ね改善、内需が底打ちの様相をみせており、年末にかけて持ち直しの可能性も。米中は11月中にも第1弾の合意を準備しているが、本質的な議論は先延ばされよう。
7~9月月のGDP成長率は92年以来の最低
10月18日に発表された7~9月のGDP成長率は前年同期比6.0%と、市場予想の同6.1%を下回り(図表1)、1992年の四半期GDP統計開始以来、最低の成長率となった。設備投資を中心に投資が不振で、自動車販売の減少で消費の伸びが鈍化した。一方、外需については、米国の追加関税等を背景に輸出は減少したが、政府が輸入代替政策を推進しているとみられ、輸入が更に減少し、純輸出(輸出から輸入を差し引いたもの)はプラスの寄与となったようだ。
内需は底打ちの様相
9月の経済指標は概ね改善。小売売上高が前年同期比7.8%増と、伸び率が8月(同7.5%増)を上回った。固定資産投資は1~9月で同5.4%増(1~8月同5.5%増)と若干鈍化したが、9月単月では設備投資が持ち直し、全体では同4.7%増と、8月実績(同4.2%増)を上回った。また、鉱工業生産は同5.8%増と8月実績の同4.4%増、市場予想の同4.9%増を大幅に上回った。5G対応携帯電話の発売を受けて生産が戻ったことに加え、機械等も伸び率が高まった。
7月に排ガス規制が強化され、その後新しい排ガス規制に適応した新車が増えつつあり、9月の自動車販売台数は前年同期比5.2%減と、5月(同16.4%減)を底にマイナス幅が縮小している。それに伴い、小売売上高の伸びも持ち直しつつある(図表2)。また、製造業の設備投資の前年同期比伸び率が底打ちの様相を示し、インフラ投資の伸びが2カ月連続で同6%増前後を維持した。固定資産投資全体の伸び率は低いものの安定しつつある。更に、在庫調整も最終段階で早晩収束するとみられることから、内需は底打ち持ち直しの様相を強めよう。政府は引き続き金融緩和やインフラ投資拡大を継続すると見込まれ、10~12月のGDP成長率は7~9月実績の同6.0%成長を上回る可能性がある。
米追加関税にもかかわらず来年の輸出はプラス成長
輸出は世界的な景気減速や中国製品に対する米追加関税を受け、今年は昨年並みにとどまると見込まれる。一方、資源価格の低下や政府による輸入代替政策等を背景に、輸入は大幅に減少し(1~9月は前年同期比5.0%減)、1~9月のGDP成長に対する純輸出の寄与度は+1%pt以上に達した。
IMFの世界経済見通し(10月改定)によると、来年の世界の成長率は3.4%と、今年の予想3.0%から持ち直すと見込まれる。中国の米国向け輸出は減少が続くと予想されるが(19年予:前年比14%減→20年予:同25%減)、輸出全体では若干増加しよう。
米中の本質的な議論は先延ばしの可能性
米中は11月中に第1段階の合意に調印すべく準備を進めているようだ。弾劾の可能性のあるトランプ大統領が外交成果を焦り、米中合意を取り付けたと考えられる。中国は米国からの輸入は農産物や資源にとどめ、大幅な譲歩はしないとみられる。このため、第1段階の合意では、中国による米産品輸入増加に対し、米国は12月15日に導入予定の中国製消費財(1600億ドル相当)に対する追加関税の延期等にとどめるとみられ、米中の本質的な議論は先延ばしにされよう。第1段階の合意を受けて、一時的に中国の消費や投資のセンチメントは改善するとみられる。ただし、第2段階の合意に向けた協議では、両国で隔たりが大きい産業政策や知的財産権等の問題を取り扱うとみられ、合意には時間を要しよう。
(東洋証券亜洲有限公司 白岩)
個性的な失業統計
危機管理の基本は「悲観的に予測して、楽観的に行動する」ことにある。事あるたびに中国に関する辛口コメントを発表している筆者だが、中国経済がいまにも大失速し、政権が直ちに崩壊するなどとは考えていない。万が一の事態に備え、相場の筮竹占いよりも、科学的調査研究に重きを置き、不良債権比率、失業率、財政赤字などの「危険信号」の動きをウォッチしているだけのことである。
しかし中国統計には強烈なクセがある。例えば失業統計。実質GDP成長率が2012年に7%台に落ちて以降、一貫して緩やかに下落しているにも拘らず、失業率は12年の4.1%から緩やかに低下、19年1Qは3.67%となっている。成長率が下がれば、失業率はそれに反比例して上昇するはずだが、中国では何と真逆。
この失業統計の正式名称は「都市部登記失業率」。関係官庁に出頭し、失業登記した人に関する行政上の数値であり、必ずしも雇用の実態を反映しているわけではない。そもそも都市部が対象だから農村部からの出稼ぎ労働者は対象外。またお役所のルールとして①戸籍地でないと受理しない、②新卒の学生は6カ月超から受け付け開始等の条件がある。また失業保険に加入していない者が多く、遠路はるばる役所に出向き、登記するインセンティブに乏しいといった事情がある。また下崗(シアガン)という中国独特のレイオフは(実質失業にも拘らず、従業員資格を残しているので)失業の対象外。
中国政府もこの「健全極まりない」登記失業率を問題視し、昨年より実態に合わせた「都市部調査失業率」を導入、19年目標も「都市部登記失業率=4.5%以下」、「都市部調査失業率=5.5%前後」の二本立てとなっている(直近9月の調査失業率は前月と横ばいの5.2%)。
経済データとして問題があるのは承知の上で、トレンドを探る参考値として利用してきた登記失業率だが、成長率の低下に正比例して失業率が下がるとは誠に不思議な統計ではないだろうか。
(主席エコノミスト 杉野)