中国政府がここに来て「強国」を前面に出した国家的政策を相次いで公表している。規模の追求がメインだった「大国」志向から、質も重視した「強国」を目指す中長期的な骨太の方針だ。一方、消費後押しなどの景気対策や金融緩和など、当面の経済情勢を支える政策もきめ細かに発表。中国株式市場は秋の"政策総動員相場"の幕開けとなるか。
交通とスポーツで「強国」推進
中国共産党中央委員会と国務院は9月19日、「交通強国建設綱要」を公表した。2035年までに交通強国の地位を基本的に確立し、「都市部は1時間で通勤、都市群は2時間で移動、全国主要都市間を3時間で移動できる交通網」の構築などが掲げられた。物流圏の構築や乗り継ぎのスムーズ化などといった具体案も盛り込まれ、次世代情報技術(IT)、人工知能(AI)、製造スマート化などの先端イノベーションを活用。時速600kmのリニア、同400kmの高速鉄道、同250kmの高速貨物列車などの技術にも言及したほか、自動運転などの研究強化もうたわれた。「交通強国」に向けた政策の決定版と言えるだろう。
これに先立ち、9月2日には「体育強国建設綱要」が公表された。50年までのスポーツ強国の全面構築を目指す。スポーツ分野では、14年公表の「スポーツ産業振興策」以降、「健康中国」などのスローガンと共に様々な政策が打ち出されてきた。近年は周辺消費に言及するものもあり、スポーツを活用して消費を底上げしたいという政府の思惑も見え隠れする。
中国は「大国」から「強国」へのグレードアップを進めている。15年5月発表の「中国製造2025」では、次世代情報技術(IT)やロボット、新エネルギー車など10の重点分野を設定して各産業の高度化を目指し、25年までの「世界の製造強国の仲間入り」が目標として掲げられた。このほか、「科学技術強国」「AI強国」「ネット強国」「航天(宇宙)強国」「教育強国」などの構築も提唱されている。景気減速下での"国民激励"という狙いもあるだろうが、「強国牛(ブル)」という言葉もあるように、強国政策関連株、すなわち技術や製品の自主開発を進める企業が注目されるケースも出てくるだろう。
ゼネコン株の後押しなるか
冒頭で紹介した「交通強国」の政策では、鉄道や道路を中心に、水路、空路、パイプライン、郵便などの拡充も盛り込まれている。中国の交通インフラの充実ぶりは目を見張るべきものがあり、高速鉄道や高速道路の距離は世界1位を誇る。ただ、地方部の高速鉄道駅へのアクセス不備、市内交通インフラ(地下鉄など)の未整備などの問題点もあり、今後はきめ細やかな交通網の構築が求められている。
景気減速や地方政府の財政懸念などの諸事情により、特に18年以降はインフラ投資額が伸び悩んできた。ただ今後は、地方政府の専項債(特別債)の発行加速(後述)が決定し、各種建設計画の認可ペースも上がってくるだろう。マクロ統計への反映はやや遅れるかもしれないが、交通インフラと関係が深いゼネコン関連株の値動きに期待したい。
インフラ投資は規律重視
「強国」関連は中長期的な政策と言えるが、中国政府は8月以降、足元の景気対策も矢継ぎ早に打ち出している。7月30日開催の中国共産党の中央政治局会議で指摘された「新たなリスクに直面し、国内経済の下押し圧力が増している」「憂慮の意識を高める必要がある」などの現状認識を反映した動きと見られる。
マーケットの潮目を変えたのは、8月31日に開催された金融安定発展委員会の会議だ。同会議で指示された「長期資金の流入」というキーワードが株式市場でポジティブ材料と捉えられ、週明けの9月2日から上海総合指数は買い優勢の展開。同9日には3,000ptを回復し、2カ月ぶりの高値を付けた。6日の預金準備率引き下げ(実施は16日から)、20日の最優遇貸出金利(LPR)1年物の引き下げは金融緩和策として素直に受け止められた。
景気対策ではインフラ建設に軸足が置かれている。資金面のボトルネックが解消し、工事がさらに進捗する見通しだ。9月4日に開催された国務院常務会議では、地方政府の専項債(特別債)の発行加速が決められた。同債券はいわゆるレベニュー債で、高速道路建設や都市再開発などのインフラ関連に使途が限定されるもの。3月の全国人民代表大会(全人代)で、今年の発行額は前年比約6割増の2兆1500億元と決定。インフラ強化の全面支援方針が示されていた。
今回の常務会議における専項債関連の主な決定事項は、①9月末までに発行を終え10月末までに事業(プロジェクト)に行き渡らせる、②翌年(20年度)分の発行枠を前倒しで発行(いわば「前借り」)、③対象事業に空港や港、駐車場、汚水・ごみ処理施設などを加える、④専項債の20%程度をプロジェクト資本金に充てることができる、などだ。また、専項債による調達資金の不動産などへの"流用"を戒め、李克強首相も「中途半端なプロジェクトの出現を防ぐ」と強調。建設事業の規律管理が強く求められた。18年夏場以降、政府からインフラ支援策が掲げられてきたものの、成果はなかなか出てこなかった。だが、資金源や用途が改めて明確化されたことで、今後のインフラ投資の伸びが大いに期待される。
このほか、スポーツ関連消費の後押しや夜間経済(ナイトタイムエコノミー)の活性化などを通じた消費市場の支援策も相次いでいる。低迷が続く自動車市場では、購入制限の緩和策も検討中。市場には底打ち感もあり、具体的な施策が出れば年末から来年にかけての市場反転要因になるだろう。
(上海駐在員事務所 奥山)