1月21日~25日の5日間、中国の深セン・広州・武漢の視察研修に参加した。移動中の車窓からは、大規模開発が進む光景や鉄道投資と思われる工事案件が数多く見られた。メディアで報じられている「中国景気の減速」感は、少なくとも訪問した地域では感じられなかった。IR担当者による企業紹介は自社の業容と将来に対する自信に満ちており、中国の経済規模と企業業績の継続的な拡大を確信するには十分であった。急変貌する街並みと現在の開発状況をこの目で見て、数年先は今とは全く違った形への進化を予感した。本稿ではこの度視察した深センについてまとめてみた。
次々と開発される深センの市街地
春節(旧正月)前という日柄もあり、街の飾りつけからも正月ムード一杯の深セン。そこで目に飛び込んだ景色は、至る所で進んでいる都市開発だ。一部の地域では、街全体が新たに造成されている印象であった。
日本でも再開発と称して都心部では商業ビルやマンションの建設が相次いでいるが、目に付くのはビル数棟単位の開発が殆ど。
一方中国では、区画ごとに開発が行われているのだ。商業用と思われる高層ビル群、交通インフラの開発状況から、深センの更なる発展を予感させる光景であった。
深センの18年域内GDPは前年比7.6%増の2兆4222億元と、広東省の同6.8%増や中国全体の同6.6%増を上回った。17年の同8.8%増から成長率は減速したが、それでも7%以上の成長を維持。その勢いは都市開発に表れていた。
下の写真は開発中と思われる区域を撮ったもの。左側と正面の高層ビル群の林立度合を考慮すれば、右側の柵で覆われた空き地にも、同様の高層ビルが建設される可能性が高い。
このような柵で囲まれた区画が深センの前海地区付近では数多く見られた。数年後この街は、全く違った姿に進化していくのだろう。
深センに見る中国株の将来性
深セン証券取引所では、先ず敷地の広さと都市開発のスケールの大きさに圧倒された。敷地内に飾られている「龍」や「雄牛」を模した彫像を人と比べてみると、かなり大きな作品であることがわかる。
今後を見据えての中国株投資の参考になったのは、深セン証券取引所の見学時に紹介された沿革や取引所の概要等の説明内容であった。
前述した深セン域内GDPは、上海と北京に次いで中国第3位で、発展ぶりが目覚ましく、中国における対外開放の窓口としての役目を果たしているという。同証券取引所の上場企業の特徴は、業種別でITやハイエンド、ヘルスケア、カルチャー、ハイテク、サービスなどの比率が高いこと。18年に浮上した米中貿易問題では、「中国製造2025」で中国が強化を目指しているハイテク分野への圧力が強まっているが、それに関連する企業が数多く上場しているようだ。米中協議で同問題の妥協点を探るべく両国要人の会談が続いているが、中国政府からしてみれば譲れない分野でもある。
一方で資本市場に関しては、これから更に外資への開放が進みそうだ。需給面で「ストックコネクト(上海・深センと香港の株式取引の相互乗り入れ)」を利用した海外からの投資資金の流入がQFII(適格海外機関投資家)を利用したそれを上回っているという。19年はMSCI新興国指数への中国A株組入れ比率が引き上げられるほか、英FTSE指数への採用も予定されており、更なる投資資金流入が期待されそうだ。現在、海外投資家への中国A株の企業情報は少ないうえ、中国語表記での情報が殆ど。中国株市場のグローバル化進展に並行して海外投資家向けに英文化された情報も増えてくると思われ、欧米投資家の中国株投資が更に増えるだろう。市場開放が本格的に進む前の現時点で、改めて中国株投資を再考することも投資手段の一つと思われる。
「粤港澳大湾区」計画で更なる発展へ
2月18日、中国国務院(中央政府)が広東省(粤)と香港(港)、マカオ(澳)の経済協力の強化構想「粤港澳大湾区」計画の綱要を発表した。そこでは2022年までに世界一流のベイエリアと世界級都市群を形成し、35年には国際的な競争力と影響力を一段と高めることが目標として掲げられた。
この度視察した深センの位置づけは、世界に影響力のある「イノベーションの都」形成、とされている。広州を含めたこの地域の至る所で行われている開発は、粤港澳大湾区計画に沿ったものとすれば、規模の大きさにも納得できる。
日本メディアによる中国関連報道は、中国景気の減速や貿易摩擦の影響に関する内容が殆どだ。確かにその影響は数値的に企業の生産活動や消費に表れているのだろう。しかし、現地視察を通して、あくまで「ムード」的ではあるが、景気減速に対する不安はあまり感じられなかった。特に深センの変貌ぶりは想定以上。この速度で今後も高層ビル建設が続いた場合、十数年後は米ニューヨークのマンハッタンを超える規模の街になっていても不思議ではない。外国資本の受け入れ緩和が進めば、海外から莫大な資金が流入するだろう。これらの事例から判断すれば、やはり中国株は「買い」ということか。
(投資調査部 檜和田)