3月14日に閉幕した中国の全国人民代表大会(全人代)では、「経済の発展方式の転換と経済構造の調整」を明記した「第12次五カ年計画」(2011〜15年)が採択された。同計画中の経済成長率目標を年平均7%とし、住民収入の年平均伸び率は7%超を目指すことも合わせて盛り込まれた。これまで「量」という経済規模の追求を求めてきた中国の発展方向が、生活の豊かさに代表される「質」を目指す点にシフトしたと捉えられよう。省エネ・環境保護や新エネルギーなど7分野を戦略産業として位置付けることも盛り込まれた。また、香港の国際金融センターとしての地位向上も言及され、人民元のオフショア市場化への進展が加速していくとみられる。
温家宝首相が行った「政府活動報告」では2011年の政府活動として、「物価水準の基本的な安定」「社会保障強化と民生の重視」「住民の消費需要の一層の拡大」などが掲げられた。「『国富』から『民富』へ」とも形容されるように、国家的な富の分配を後押しする内容と言え、予算の内訳からも民生重視がうかがえる。
住民所得の増加、経済発展と同じペースで
第12次五カ年計画中の経済成長率目標は年平均7%と設定されたが、住民収入の年平均伸び率はこれを上回る7%超を目指すとされた。これは、第11次五カ年計画(06〜10年)のGDP成長率は11.2%だったのに対し、1人当たり収入は都市部で9.7%増、農村部で8.9%増にとどまったことを踏まえた目標設定だ。「経済成長の恩恵を所得にも反映させる」という政府の意思表示とも捉えられ、各種減税、家電などの購入支援策、最低賃金の引き上げなどが具体的政策として考えられる。所得向上は消費増大につながり、政府が目指す内需拡大を後押ししていきそうだ。
農業のさらなる発展
農業分野の強化は長年にわたって中国政府の課題とされているが、今回の綱要の中でも重点項目と位置付けられた(全16編のうち第2編で取り上げられている)。食糧増産、生産効率と品質の向上のため、水利施設の強化、天候に左右されない大規模水田開発、食糧物流のさらなる充実などが進むとみられる。
7分野の戦略的新興産業の育成
競争力アップを図る戦略的新興産業として、次世代情報技術(IT)、省エネ・環境保護、新エネルギー、バイオ、ハイエンド製造設備、新素材、新エネルギーカーの7産業が選定された。同7産業がGDPに占める比率を2015年までに8%前後、20年までに15%前後まで高める目標も示されている。
香港を国際金融センターとして強化
綱要の中では香港とマカオについても言及した。注目されるのは「香港の国際金融、貿易、海上輸送センターとしての地位を固める」とされた点で、具体的には「香港を人民元業務のオフショア市場化とすることを支持する」との文言だ。温家宝首相は全人代終了後の14日に行われた記者会見で、香港の人民元オフショア市場化について「特別に強調する」としていた。中国政府が香港市場を通じて人民元の自由化及び国際化を図っていくとみられ、香港市場における人民元建て債券の発行増加及び株式発行などさまざまな金融商品の新規開発が進むだろう。
予算から伺える民生重視
冒頭で、中国の発展方向が「量」から「質」へとシフトしたと記したが、それは政府予算からもうかがい知ることができる。項目別で見ると、2010年度(実績)及び2011年度(予算)の伸びがそれぞれ全体の伸びより高いものは、教育、科学技術、社会保障と就業、医療衛生、農林水産関連、住宅保障支出などだ(下表参照)。温家宝首相による「政府活動報告」の中から、各項目のキーワードをまとめてみる。
(アジア部 奥山)