債務上限とは、米連邦政府が国債などで借金できる債務残高の枠である。債務が上限に到達すると、上院、下院の承認を得て、上限を引きあげなければ新規国債を発行できず、債務不履行になる可能性がある。現在の債務上限には夏ごろに達するとの見通しもあり、米国の下院では、共和党のマッカーシー下院議長が4/23(米時間、以下同)に提示した歳出・債務上限法案は4/26に下院を通過。債務上限を巡り、民主、共和両党の政治紛争が激しくなりそうだ。
2011年の8月頃にも、債務上限の問題があり、当時も上院と政府が民主党で、下院が共和党であった。2年、5年米国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)がそれぞれ70bp、60bp超に急拡大し、リスクオフのセンチメントが強まった。ギリギリで債務上限を引きあげる法案が成立したが、格付け会社S&Pは1941年以来初めて米国債の格付けを最上位のAAAからAA+に格下げした。こういった経緯を経て、S&P500指数は7月下旬~8月中旬の間に約18%下落し、暫く調整に入った。
2023年現在の米国政府債務は12年前の約2倍、31兆ドル超に拡大した。与党と野党の政治紛争は簡単に終わらないと見る。現時点で下院の共和党が提出した債務上限を1.5兆ドル引きあげる法案は、エネルギー規制の緩和、クリーンエネルギー税制優遇の廃止、未使用コロナ対策基金の取消し、低所得者向けの医療保険加入者の就労義務新設などから成り、10年かけて歳出を4.5兆ドル縮小するとの見通し。こういった内容では、下院を通過しても、民主党多数の上院とホワイトハウスでは容認されにくいと思われ、2年、5年米国債のCDSもそれぞれ110bp、60bp超に拡大した(4/26時点)。
2011年当時の約9%の失業率、ゼロ金利、インフレより成長を重視する金融政策とは違い、現時点約5%の目標金利、3.5%の失業率、インフレを抑えたい経済状況は相対的に健全と思われ、短期的な波乱があっても、株式を物色するチャンスになろう。
(投資情報部 萬)