かねてより何かと話題になっていることも多い量子コンピューター。これに注目し過ぎると、「木を見て森を見ず」になりかねない。
なぜならば、量子コンピューターは「量子力学」という特殊な物理法則を利用した「量子技術」の一例に過ぎないからである。これからは量子技術と名付けられた1つの森を見る必要があろう。
量子は常識では理解できない奇妙な振る舞いを見せるとされ、それを利用した様々な技術が存在し、それによって画期的な成果が達成できると期待されている。
例えば、先述した量子コンピューターは、計算単位の「量子ビット」が0でもあり1でもある「重ね合わせ」の状態を利用することで、スーパーコンピューターを大きく上回る速度での計算が可能になっている。他にも、状態の変化のしやすさを利用して周辺環境の微弱な変化を読み取る量子センシングや、一旦読み取ると状態が変わってしまう性質を利用して情報漏洩を防ぐ量子通信或いは量子暗号、量子状態の精密制御で機能を発現する物質や材料を取り扱う量子マテリアル等がある。
これらの中には実用化が進みつつあるものも存在し、例えば東芝が「疑似量子計算機」を実際の株式売買に活用する実証実験を開始すると聞く。

諸外国では量子技術が戦略的基盤技術として明確に位置付けられ、政府による横断的な支援が為されている。また、民間でも、GoogleやIBM、アリババのような巨大IT企業やD-Wave等のベンチャー企業が積極的に量子技術領域への投資を行っている。
転じて日本は、概して技術の実用化や産業化・システム化等への取組みでは出遅れている。ただ一方で、量子暗号関連の特許では東芝が首位に立ち、NECも3位に位置するといったように、基礎理論や知識・基盤技術では優位性や競争力を有している。後発勢に玉座を明け渡すという辛酸を舐めたかつての半導体やリチウムイオン電池の二の舞にならぬよう、「宝の持ち腐れ」は何としてでも避けなければならない。
(マーケット支援部 山本)