銀行業に迫る「大波」
銀行業界は今、重大な岐路に立たされているように見える。世界的に長引く低金利環境により、本業となる預貸業務は苦戦傾向にあるのに加え、資産価格上昇の一方で金利が上昇基調を見せているため、一部でローン需要の弱さが指摘されているともいう。
これに追い打ちをかけるのが、フィンテックだ。IT企業は既存の銀行業が無視できない規模にまで成長している。銀行業はこの大波に如何に対応するのか。
テクノロジーが促す銀行離れ?
テクノロジーが及ぼす銀行業への影響は非常に大きいものと推察できる。分かりやすい例として挙げられるのが、トランザクションレンディングや昨今国内で話題になっている給与デジタル払いだ。
前者に関しては、過去の取引データを基に中小企業等に融資を行う仕組みであり、米アマゾンや楽天といったEC事業者が出店者に対して行うサービスが有名となった。既存の銀行融資に比べスピードや利便性に優れるというメリットが支持されている模様。
後者に関しては、企業が銀行口座を介さずに従業員のスマートフォンの決済アプリに直接給与を振り込むというもの。様々な声が挙がっており、厚労省が解禁に向けて調整を進めている。解禁されれば銀行は既存のビジネスモデルを見直さざるを得ないだろう。
銀行が変わるという逆転の発想
こうした逆風に対し、既存銀行はフィンテックサービスの導入やオンライン化等の施策を講じているが、個人的に注目できると考えている事例について紹介したい。それは、ロシア最大の銀行とされるロシア連邦貯蓄銀行(ズベルバンク)だ。
昨年9月にはグループのロゴと社名から銀行の文字を取り「ズベル」となった。「脱銀行」を掲げた変革には目を見張るものがあろう。
一部店舗では顔認証で利用可能なATMで入出金のみならず映画チケットの購入やタクシーの呼び出しも行えるとのこと。日常使いのサービスとして配送事業も開始した他、銀行店舗内にはカフェスペースも備え、顧客以外でも利用可能。さらに、同行が運営に協力する「プライムカフェ」では、ATMと同様の顔認証決済が利用可能なようだ。さらに、「ズベルボックスTVセット」というスマートテレビ向けデバイスも開発し、顧客が自宅のテレビで動画サービスに始まり同行のあらゆるサービスにもアクセス可能とのこと。
一部で「アマゾン化」と囁かれるように、同行幹部は「顧客の周りの全てのことをズベルのエコシステムで完結させたい」と言う。文字通り、逆転の発想をし実行できるか否か。それも銀行の生き残りに向けた分水嶺となろう。
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(マーケット支援部 山本)