2011年3月に発生した東京電力福島第1原子力発電所の原発爆発事故は世界中に衝撃を与えるとともに、発電様式の大幅な見直しが進んだ。震災前の日本において、原子力発電は2010年度に電源構成の26%を占めていたが、2016年度には2%にまで低下した。
一方で、原子力発電を名実ともに「ゼロ」にすることは現実的とは言えないかもしれない。世界の電源別発電電力量の推移を見ると、原子力が減少傾向にあるとは言い難い。
原子力発電を当面は受け入れざるを得ない最大の要因として考えられるのが、足もとで一大潮流となっている「環境」だろう。先述したように、日本における2016年度の電源構成で原子力発電は2%にまで低下したが、それを補ったのが化石燃料による発電方式だ。2010年度比では再生エネルギーが5%pt上昇したのに対し、化石燃料は実に19%ptの上昇。
資源の安定調達もさることながら、CO₂排出による環境負荷の増大という課題が横たわる。原子力は「事故さえ起こさなければ」という前提条件付きで環境に優しいエネルギー源である。政府の掲げる2030年度の電源構成目標では、原子力発電が20-22%を占めることが望ましいと示されている。環境に配慮しつつ生活水準を維持或いは改善するならば、原子力発電への一定の配慮も必要だろう。
このような文脈で注目できるのが、「小型原子炉」或いは「小型モジュール炉(SMR、Small Modular Reactor)」だろう。1基当たりの出力が小さい(従来は出力100万kW超)一方で従来の大型原子炉に比べ冷却しやすく、安全性が高いとされている。例えば、米NuScale社が開発するものは、1モジュールの出力は6万kWに過ぎないが、最大12個のモジュールをプールの中に設置し小型化と一体化を図ることで大規模な冷却材喪失事故のリスクを回避するという。これ以外にも日立系企業と米GE系企業による開発事例も散見され、なかには実用化の道筋が見え始めている例もあるようだ。
よりよい国際社会の実現に向けては、新しいものを取り入れることに加え、既存のものをよりよくするという視点も重要だろう。
(マーケット支援部 山本)