猛る、「物流クライシス」
少子高齢化の進展とEC市場の拡大。そこに新型コロナによる消費行動の変化が重なったことで、いわゆる「物流クライシス」が猛威を奮っているように見受けられる。とはいえ、物流クライシスとは一過性の要因によるものではなく、物流業界そのものの構造的要因に因るところが大きいようだ。
アナログな商慣習をデジタライズする
問題の根底を理解するため、物流の配送網の例を紐解く。日本の物流は「軽貨物」と「一般貨物」に大別される。前者は営業所といったローカル拠点と個人宅・法人オフィスを結ぶいわゆるBtoCで、市場規模は2兆円とされる。後者は大都市拠点間を結ぶ幹線輸送や大都市拠点とローカル拠点を結ぶ地場輸送で構成されるいわゆるBtoBで、市場規模は14兆円規模にも上るとされている。
一番逼迫しているとされるのが、後者の「一般貨物」のドライバーだ。物流業界での取引の多くが電話の相対取引で行われていたり、仲介者が入ることによる多重下請け構造が発生したり等、商取引のアナログさが目立つ模様。価格がオープン化されず不透明なままに留まったり、需要と供給がうまくマッチせずに製品を出荷したい時に運送トラックが手配できないという状況が生まれている。このような中で、ドライバー不足も相俟って、小売店での品薄や食料品類の値上げ、引越し費用の増大といった影響が徐々に出ている模様。
こうした物流クライシスを解決する1つの方策として注目できるのが、オープンな「デジタル物流情報プラットフォーム」の構築だ。これはメーカー工場・倉庫、流通倉庫、小売店舗、運送会社をプラットフォーム上でIoTを介して結び合わせ、そこから得られるビッグデータを活用した危機解決の試みで、要注目だろう。
デジタライズ以外の解決策もある
物流をデジタライズする以外にも、物流クライシスの解決に有効と思われる施策は存在する。まず、物流倉庫や配送拠点といった施設にロボットやソフトウェア等を導入すること。在庫管理やピッキング、仕分け、梱包等の各部門の作業を自動化することで、問題の解決に繋がることが期待される。次に、小型無人機いわゆるドローンの活用だ。主に過疎地域での物流効率化や利便性改善が期待されているが、環境対応の他、災害時を含めた新たな物流手段としての役割が期待されている。そして、人材確保に向けた、女性や外国人ドライバーの活用だ。前者に関しては、ドライバーとして就業する女性が、女性大型自動車免許保有者の約13%に留まるとされる現状を受け、就業促進に向けた環境整備や車両開発が求められている。後者に関しては、外国人ドライバーを「特定技能」の対象として認め、在留資格を付与することが求められているとのこと。
もちろん、これらは日本における固有の課題解決とも言えるが、世界に目を向ければ、少なくとも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「ドローンの活用」は共通項のような印象を受ける。
日本においては様々な施策を組み合わせて複合的な視座で危機の解決に取り組む姿勢が求められていそうだ。
主な関連銘柄(銘柄略称)
主な関連銘柄としては、日本株ではラクスル(4384)、ACSL(6232)、ダイフク(6383)、ヤマトHD(9064)、SGHD(9143)、関通(9326)、米国株ではアマゾン(AMZN)、フェデックス(FDX)、中国株では京東集団(09618)、順豊HD(002352)などが挙げられよう。
(マーケット支援部 山本)