アリババを含む中国ネット企業は収益性改善の基調が続いている。株式市場で低評価が目立つアリババは市場競争力と企業価値向上のために組織改革を断行。生成AIは様々な産業に大きな変革をもたらす可能性を秘める。アリババは4月に生成AI「通義千問」を発表。クラウド業界での競争力強化を後押しする見込み。
株式市場で低評価が目立つアリババ
当局の規制強化や新型コロナ禍など厳しい外部環境下、中国のネット各社は22年にこぞって収益性重視へ舵を切り、コスト削減に取り組んだ。調整済み純利益では、テンセントとアリババが前年比1桁台後半の減益だった(両社とも7~9月期から復調)。一方、その他ネット大手の収益性はいずれも大きく改善した。調整済み純利益の絶対額では、アリババが1375億元とテンセントの1156億元を上回った。
ただ、アリババの時価総額はテンセントの5割強にとどまり、株式市場での低評価が目立つ。その要因は、①主力のeコマース市場でのシェア低下。22年、アリババの国内コマース事業は前年比1%増収だったが、競合の京東集団、ピンドゥオドゥオ(PDD)は同10%増収、同39%増収。ショート動画大手の抖音(ドゥイン)と快手もeコマース事業を強化し、存在感を増している。②クラウドや物流などの成長事業は利益押し下げ要因となっているが、その事業価値は時価総額にさほど反映されていない。22年の事業別営業利益を見ると、中国コマースが1681億元の増益である一方、その他5大事業は429億元の減益だった。22年の調整済み純利益に基づくアリババのPERはわずか12倍であり(4/21終値ベース)、クラウドなど成長事業の事業価値は過小評価されていると推測される。
市場競争力、企業価値向上のため新体制へ
アリババは3月28日、6つの事業グループを分割し、各事業が独立した経営を行う組織改革を発表した。組織改革の主な目的は、①より迅速かつ柔軟な経営判断ができる体制の構築、②事業毎の採算性と事業責任の明確化、③事業毎の市場競争力と企業価値向上、④ガバナンスの強化などが挙げられる。淘宝天猫商業集団を除くその他事業グループの資金調達やIPOも視野に入る。アリババは過去10年間、成長追求や競争力強化などを狙い、M&A(合併と買収)などによる多角化経営を積極的に推進してきた。今回の組織改革を行う背景には、「大企業病(大企業に多くみられる非効率な企業体制)」と各事業でライバルの攻勢に押されていることがあると思われる。今後の焦点は分割した事業が業績向上に導くか...との点にある。各事業グループが外部から資金調達を開始すれば、事業毎の価値は見える化される。主要事業の公正価値を積算する「サム・オブ・ザ・パーツ」方式での企業価値が計算しやすくなり、株式市場での過小評価が見直される可能性は高まると見られる。既にネットスーパーの「盒馬鮮生」や物流事業の「菜鳥」が上場準備を始めていると報じられており、今後事業グループのスピンオフ上場が増えれば、企業価値の増大につながると考える。
生成AI・大規模言語モデル「通義千問」を発表
米新興企業オープンAIが開発した「ChatGPT」の登場をきっかけに、世界規模で生成AI(人工知能)・大規模言語モデルに注目が集まっている。中国では、百度が3月に生成AI「文心一言(ERNIE Bot)」を発表して以来、テック大手の参入が相次いでいる。アリババクラウドは4月11日、生成AI・大規模言語モデル「通義千問」を発表。アリババは、「通義千問」を自社全ての製品・サービスに組み込むほか、顧客企業に対してカスタマイズされた独自の大規模言語モデルの構築を支援するクラウドサービスも提供する計画。生成AIはまだ黎明期にあり、様々な産業に大きな変革をもたらす可能性を秘める。今後、「通義千問」は大きく進化し、高成長が続くクラウド業界での競争力強化を後押しする見込み。
(東洋証券亜洲有限公司 キョウ)