米アップルのサプライチェーンに中国企業が組み入れられて久しい。激化する米中対立の一方、製造面でのパートナーシップは健在。日本や台湾企業も絡み、微妙なバランスを保ちながら供給網は深化している。
右肩上がりの"アップル比率"
アップル社が2021年5月に発表したサプライヤーリスト(20年版)によると、収載された200社のうち中国企業(香港を含む)は51社まで増加し、全体の約25%を占める台湾企業に肩を並べる存在となった。いわゆる「アップル経済圏」の仲間入りを果たすことは部材メーカーにとって大きな名誉で、一流企業の証ともされている。チップ、ディスプレイ、メモリーの三大分野は日米韓企業の天下とされ、中国企業はコア部品の提供面で遅れているが、製造面や小型部品ではじわり存在感を高めている。
アップル関連企業として真っ先に名が挙がるのは立訊精密工業(ラックスシェア、002475)と歌爾(ゴーテック、002241)だ。従来からアップル向けにコネクタやマイクロホンなどの部品を出荷していたが、16年に発売されたAirPodsの製造請負でより注目されるようになった。今では同製品の7割弱をラックス、20~25%程度をゴーテックが手掛けているとされる。両者の売上全体に占めるアップル向け比率は右肩上がりで、20年はラックスが69.0%、ゴーテックは48.1%まで上昇した。
アップルの株価上昇に合わせ、関連銘柄の値動きも良好だ。前述の2銘柄に加え、半導体の北京兆易創新科技(ギガデバイス、603986)、電源(コンセント)などを提供するBYD(01211)などの直近3年間での好パフォーマンスが目立つ。iPhoneやAirPods、iPadなどの新製品発売や販売好調が伝えられれば関連株が動意付くというパターンが多い。米中摩擦に逆風はあるものの、アップルのブランド感やネームバリューは中国市場でも抜群。その動向は関連企業の業績や株価に大きな影響を与えている。
知る人ぞ知る関連企業を探せ
ニッチな分野でも中国企業の名前が出てくる。深セン創業板上場の藍思科技(レンズ・テクノロジー、300433)はタッチパネルのカバーガラスなどを製造する有力企業だが、20年に台湾の可成科技(キャッチャー・テクノロジー)の傘下工場を買収して金属筐体(ケース)分野に進出した。可成はiPhone向け筐体で5割超のシェアを握るとされている。欣旺達電子(サンオーダ、300207)はiPhone向けリチウムイオン電池の組み立てを担っていると見られる。
リスト未掲載だが、舜宇光学科技(サニー・オプティカル、02382)は21年からiPad向けリアカメラレンズを出荷中と伝えられる。また、東証一部上場で光学薄膜装置大手のオプトラン(6235)は売上高の14.4%がアップル向けとされる(20年12月期)。光学薄膜は光の反射や透過などをコントロールする技術で、スマートフォンなどの製造に欠かせない工程。このオプトランには浙江水晶光電科技(002273)が約15%出資している。このほか、風力発電設備大手の新疆金風科技(02208)は、傘下の風力発電会社にアップルの出資を仰ぐなど業務提携中だ。
米中関係を占うアップル経済圏?
一方、アップルとのサプライヤー関係が打ち切られる企業も毎年見られる。光電子部品大手の欧菲光集団(002456)は21年3月、「海外の特定顧客から取引打ち切り通知を最近受け取った」と発表。19年度売上高の22.51%を占めるこの顧客はアップルを指すと見られる。20年7月に同社傘下企業が米国のエンティティーリストに追加された影響があったのかもしれない。当時からサプライヤー除外の観測も出ており、株価は23.63元(20/7/14高値)⇒7.02元(21/7/28安値)まで1年余りで約70%下落した。
米中対立やサプライチェーン再編の動きによるアップル経済圏への影響は測りがたい。リストを見る限り、比較的安価な労働力と規模のメリットなどで価格優位性がある中国製品をアップルは完全には排除していない。もっとも、ラックスやゴーテックは一部工場をベトナムやインドに移転し、"中国包囲網"を潜り抜けようとする動きも見られる。両国関係を占う上でも、アップルとサプライヤーの一挙手一投足が注目されよう。
(上海駐在員事務所 奥山)