株主還元の一手
足もとで日本株式市場は諸外国に比べ出遅れている印象が強い。為替相場が比較的しっかりしているのにもかかわらず、こうした状況にある背景としては、米中通商協議や英国のEU離脱(Brexit)といったような国際政治の動向を巡る不透明感が日本企業の業績に与える影響を見極めづらいことが主なものとして挙げられよう。
そうしたなかで市場を活性すると期待されるのが株主還元だが、今回はその一手としての「自社株買い」に注目したい。
ステークホルダーへのシグナル
自社株買いとは、企業が発行した株式を、その企業が市場の時価で買い戻すことを言う。買い戻した後に償却する(しない事例もある)ことで発行済株式数を減らし、結果として経営指標を良くすることができるため既存株主からポジティブにとられることが多い。株価の引き上げや一株当たりの利益(EPS)の引き上げが見込まれるためだ。
また、従業員持ち株制度に係るストックオプションの取得という目的や敵対的買収への買収防衛策としての目的でも行われる場合もある。前者は、従業員の持ち株の価値上昇を通じた従業員のモチベーション引き上げを狙い、後者は株価引き上げを通じた敵対的買収を行う側のコスト増大を狙う。いずれも、株主のみならず従業員、そして市場参加者等といったような、様々なステークホルダーへの何らかのシグナルを発するものであり、自社株買いの持つ意味の大きさが窺える。
もっとも、自社株買いの発しうるシグナルの中でも極めて重要なのは、企業が自らの事業の成長性に自信を持っているというものや、その企業の株価が割安だと捉えているというものが挙げられよう。
相場の引き上げ役として
本稿で取り上げている自社株買いは、直近では株式相場の引き上げ役としての役割を担う側面が注目されているように見える。現に、2/6にソフトバンクグループが、2/8にソニーがそれぞれ自社株買いを発表。金額の大きさや発表のタイミングと、評価されたポイントに差はあれど、全体として株式相場にはポジティブに作用したとの声も挙がっているようだ。
市場では次なる自社株買い候補探しが始まっているという見方もあり、キャッシュリッチ企業や、資本政策で株主還元が軸となる商社、銀行株等が注目されているとの観測もある。
年度末へ向けて、日本株式市場の第二のエンジンとして働くことに期待したい。
(マーケット支援部 山本)