中国はトランプリスクをどう乗り越えるのか~人民元安、内需拡大、自立自強~
利食い売りに押された11月の中国市場
11月1~25日の香港ハンセン指数の騰落率は-5.7%、上海総合指数は-0.5%。米大統領選でトランプ氏が次期大統領に決まり、主要閣僚に反中派が指名されたこともあり、中国株は下落。特に香港市場は外国人投資家が主要参加者のため、大幅下落となった。
10月は景気持ち直しが顕在化
10月の主要経済指標は中国景気の持ち直しが一段と顕在化したことを示した。政府の支援策もあり、新築住宅販売金額は9月の前年同月比▲16.5%から10月は前年並みとなった。また、懸念された消費も、10月半ばから始まったネット通販の「独身の日」セールの売上が前年比+27%と好調で、10月小売売上高が前年同月比+4.8%(9月同+3.2%)と急回復、特にオンライン販売は同+10.3%と5カ月ぶりに二桁増になった。製品別では家電が政府の補助金拡大等が寄与し同+39.2%と、好調が続いた。
11月に入っても景気持ち直しは続いているようで、新築住宅販売も週次統計では回復が続き、乗用車販売台数は前年同月比二桁増が続くと予想される。
中国はトランプリスクをどう乗り切るのか
米共和党の政策綱領である「速やかに達成する20の約束」を見ると、移民問題が最初の2つを占め、中国関連の政策とみられる「アウトソーシングをやめ、米国を製造大国にする」という政策は5番目に来る。これから、トランプ新政権は当初は移民問題に注力し、対中関税の引き上げは早くても25年半ば、遅ければ26年に入ってからとみる。
また、貿易部門の政策をみると、「貿易のリバランス」、「中国からの戦略的独立の確保」、「米国自動車産業の保護」、「重要なサプライチェーンの米国回帰」等が示された。つまり、米国は中国に対し中国製品の輸入抑制、米国製品(半導体関連を除く)の輸出拡大を通し米国の対中貿易収支をゼロに近づけようとしているようだ。更に、「中国からは戦略的独立」を目指しているため、米中のデカップリングは今後一段と進むであろう。
トランプ次期大統領は中国製品に対し60%超の関税を課すと発言しているため、そうなれば中国から米国への輸出は難しくなると懸念される。ただし、第1期トランプ政権では、その選挙運動中に中国製品に45%の関税をかけるとしたが、実際の追加関税率は最高で25%で、また25%の追加関税の対象商品は全中国製品の半分以下だった。このようなことから、「60%超の関税」は米国が中国から自国有利な「ディール」を得るためのトランプ氏の交渉術と考える。
中国はトランプ関税対策として、関税回避に向け交渉を重ねることに加え、①人民元安を容認し、米国の関税効果を吸収すると同時に米国以外への輸出を促進、②内需拡大策により米国向け輸出減少による成長抑制を補い、③「自立自強」の推進により米国との技術的なデカップリングに備えると考える。
人民元安容認は既に始まっており、米大統領選でトランプ氏優勢が伝わり始めた9月26日から11月26日にかけて、人民元の対ドルレートは既に3%強下落した。11月25日にトランプ次期大統領は全中国製品に10%の関税を課すとしたものの、関税による米国での値上げ効果の半分近くは人民元安により既に吸収されたと言えよう。中国は第1次トランプ政権時の18~19年に13%程度の人民元安を容認したが、今後も更なる人民元安を目指すとみる。
内需拡大については、家電、自動車、生産設備の買い替え促進策は継続すると考える。また、都市でのデジタル高速ネットワーク構築や再生可能エネルギー発電の拡大に伴う電力網整備等の新型インフラは今後も拡大しよう。住宅販売は消費者心理にも影響を与えるとみられ、更に強化される可能性がある。一方、海外旅行はGDPの押し下げ要因になるため、米国やその友好国向け中心に抑制されると考える。
自立自強には、①輸入代替を目的としたものと、②新たな製品/サービスの国内規格を海外でも標準化し海外市場の獲得を目的としたものと、2種類あると考える。
輸入代替に属すのは、中国製品の技術力が欧米に対して相対的に低く、技術力のキャッチアップに力点が置かれる製品、半導体関連や医薬品であろう。半導体では、米国の半導体関連の輸出管理規制により中国は先端半導体やその製造に必要な装置/技術を海外から取得することはできない。このため、中国は先端半導体や製造機器を独自開発し自給率を上げざるを得ない。中国の半導体自給率は14年の14%台から23年に23%となり、更に27年には27%に達すると見込まれる。第2次トランプ政権下の中国は半導体に対する支援を更に強化しよう。中国の半導体受託製造最大手である中芯国際(SMIC、00981)や中国製造装置最大手の北方華創科技(ナウラ、002371)などがメリットを受けよう。
また、中国の製品別貿易収支をみると、主に欧米からの輸入で医薬品部門の貿易赤字額が同部門貿易総額の約6割に達する。中国は16年に発表された「健康中国2030」の下で医薬品開発が急速に進み、海外展開を目的とし日米欧で行っている臨床開発品目数は15年の13品目から20年には93品目へ拡大。19年には中国発の新薬として百済神州(ベイジーン、688235)のBTK阻害薬「ブルキンザ」が米国で承認された(21年に欧州で承認)。また、23年に世界で行われたがん領域の臨床試験のうち、中国企業は全体の35%を占め、シェアトップ。江蘇恒瑞医薬(600276)は抗がん剤分野で中国最大規模である。
一方、海外市場獲得のための自立自強としては、自動運転が挙げられよう。中国では北京や武漢などの10都市以上で自動運転タクシーが提供されている。米国ではテスラ車のCEO、イーロン・マスク氏の影響力が米次期政権で高まるとみられ、自動運転のための規制緩和や開発強化が進むだろう。米中は自動運転技術の世界基準を獲得し将来の輸出市場を確保するため、今まで以上に実験を繰り返し技術の刷新に努めるとみられる。中国は21年に「国家標準化発展綱要」を発表し、中国標準の国際標準化を推し進めることを示した。中国の自動運転のパイオニアである百度(09888)が再び脚光を浴びると期待される。
(投資情報部 白岩CFA)