香港市場では今年、IPO(新規株式公開)の拡大が見込まれている。中国当局の支援を受け、A株上場企業の重複上場が増えそうだ。調達額が前年比80%超増加し、世界トップ3圏内に返り咲くとの見方もある。
政策次第で変わる中国IPO事情
香港証券取引所は2015~16年、18~19年にかけてIPO調達額で世界首位を誇っていた。テック系企業の大型上場も相次ぎ、18年に小米集団(シャオミ、01810)や美団(メイトゥアン、03690)、19年にアリババ集団(09988)、20年に京東集団(JDドットコム、09618)、21年に快手科技(クアイショウ、01024)や百度集団(バイドゥ、09888)などが香港IPOを果たした。一方、その後は中国市場が勢いを増し、IPO調達額で上海及び深セン証券取引所に抜かれる場面も目立つ。上海科創板(19年)、北京証券取引所(21年)の開設に加え、米上場廃止銘柄の"回帰上場"、証券当局によるIPO登録制の全面実施(認可制からの見直し)などが中国市場の追い風となった。
しかし、中国証券当局は23年8月に方針を大転換し、IPOや増資を抑制すると発表した。株式相場の下支えを狙い、需給悪化要因になるIPOに規制をかけた形だ。24年3月には、上場企業の質を高めるという目的で上場申請の厳格化や新株発行の調整を開始。中国ではよくあることだが、政策という"鶴の一声"によりマーケットが翻弄された。
中国証券当局は24年4月、中国有力企業の香港上場を促進する方針を打ち出した。建前上は香港金融市場の支援策の一環と言えようが、実際には「中国のIPO抑制で行き場を失った上場予備軍に対する救済策」とも捉えられよう。23年以降、手続き迅速化や公開価格の設定柔軟化などIPO改革を図ってきた香港証取にとっては大きな追い風だ。すでに美的集団(00300/000333)や順豊控股(06936/002352)が上場し、IPO市場が勢いを取り戻しつつある。
海外目指す上場予備軍が続々
香港証券取引所(00388)の唐家成会長は、旧暦「巳年」の最初の取引日となる2月3日に行われたセレモニーに出席し、1月だけでも30件の新規株式公開(IPO)申請があったことを明らかにした。うち7件はA株企業による申請だった。処理中のIPO案件は100件を超えているという。唐会長は「上場後の株価パフォーマンスが芳しくないA株企業は少なくない。それゆえ、多くのA株企業が香港(重複)上場に関心を抱いている」とも語った。
中国市場は個人投資家比率が約6割(売買代金ベース)とされ、やや投機的かつ短期的な取引になる傾向がある。ファンダメンタルズが軽視され、噂や憶測で株価変動幅が大きくなることもあり、上場企業にとっては"頭痛のタネ"だ。一方、香港市場は世界の機関投資家も多く、理性的かつ安定志向の投資家も目立つ。当然のことながらバリュエーションも正当に評価されやすい。世界的な知名度の向上も期待できる。
中国企業が香港IPOを目指す理由としては、香港ドルが調達できることも挙げられよう。香港ドルは事実上、米ドルと連動しており、人民元と異なり外貨への交換も容易だ。海外展開を目指す中国企業にとって活用しやすい通貨と言える。
香港市場における中国資本の存在感は高まっている。時価総額に占める中国系企業の比率は20年に80%を超え、70%台後半で推移。24年は79.9%だった。14年の60.3%から大きく上昇している。売買代金ベースでも、中国人投資家(ストックコネクト経由)の比率は24年に初めて3割を超え、34.6%となった。
香港上場計画を発表済の主な中国企業を挙げてみる。
◆蜜雪冰城※3/3上場予定。銘柄コードは02097(茶飲料チェーン)
◆寧徳時代新能源科技(CATL、300750)(車載電池世界大手)
◆寧波均勝電子(600699)(大手自動車部品メーカー)
◆仏山市海天調味食品(603288)(老舗調味料メーカー)
◆江蘇恒瑞医薬(600276)(製薬大手)
◆LXJインターナショナル・ホールディングス(中華ファストフード最大手)
この他、DRAM最大手の長キン存儲技術(CXMT)、中国版インスタグラムと言われる小紅書(RED)、復星国際(00656)傘下の豫園商城(600655)、地場系の奇瑞汽車、車載電池の江蘇正力新能電池技術、新興EVのナタ汽車などの上場観測も伝えられている。
(投資情報部 奥山)