10年に1度の新たな最高指導部を選出する党大会が今秋に開催される。10年前の党大会の年を見ると、今年のように景気は減速、尖閣問題で日本との関係は悪化、大規模デモが頻発、株式市場は下落した。当時は次期指導部が事前に決まっておらず、党内の権力争いが影響した可能性もあろう。ただし、株価は党大会後には反発。今年も政治的不透明感が払拭された党大会後に株価が本格的に上昇する可能性が高いとみる。
10年に1度、新たな最高指導部を選出する党大会
共産党大会は5年に1度開催され、10年ごとに最高指導部(中央政治局常務委員)の選出を行ってきた。今年は10年に1度の新指導部が選出される党大会の年だ。2022年と前回の指導部が選出された党大会の年、2012年を比較し、政治の年の類似点を見る。
経済面の類似点:12年も22年も大幅減速
12年の経済は減速が続いた。リーマンショック後の4兆元の景気刺激策で景気が過熱し住宅価格の高騰などの弊害をもたらしたため、当局が金融引き締めへ転換。GDP成長率は11年1~3月の前年同期比+10.2%から12年7~9月には同+7.5%へと減速した。
22年の経済は、コロナ禍が継続。都市封鎖で供給網が寸断されたこともあり、景気の低迷が続く。GDP成長率は1~3月の前年同期比+4.8%から、都市封鎖が広がった4~6月は同+0.4%へ急減速。その後も住宅ローン不払い問題による住宅販売の不振や猛暑による電力不足等で景気下押し圧力は継続している。
外交面の類似点:日米との対立激化
日中は10年以降、尖閣問題で関係が悪化。12年4月には当時の石原東京都知事が東京都による尖閣諸島の購入を発表すると、日本政府が日中摩擦を抑えるためにと9月に尖閣諸島の国有化を決定した。これに対し、中国政府は激しく反発し、中国公船による日本の領海侵犯が急増した(図表2)。
22年は、8月2日のペロシ米下院議長の台湾訪問に反発し、中国軍が台湾を囲み実弾演習を実施。その後も軍用機が台湾海峡の中間線を越える飛行を続けており、台湾側への侵入を常態化させる狙いがあると指摘される。日米の議員団も訪台を繰り返しており、米中関係は悪化している。
デモの類似点:12年も22年も抗議活動が多発
中国では抗議活動が政府の同意または黙認がなければ行えないが、12年も22年も国民の不満が溜まっていたこともあり、抗議活動が活発化した。
12年は日中関係が悪化したこともあり、「反日デモ」が80都市以上で大規模に実施された。大規模で同時多発的に行われたため、「官製デモ」ともみられている。また、格差拡大等の不満のはけ口になったとの見方もある。
22年は、新築住宅を購入したにも関わらず期日に住宅が引き渡されない住宅購入者が住宅ローンの支払い拒否を訴え7月に各地で抗議活動が広がった。加えて、預金を不正流用し預金引き出しを停止した地方銀行に対し預金者約3000人が集団抗議活動を実施した。22年も大規模抗議活動が多い。
共産党大会前は権力闘争が経済、外交に影響か
中国憲法は、「中国の各民族人民は中国共産党の統率的指導のもと・・・社会主義国家を作り上げるであろう」とされ、三権分立ではなく、全ての権力が中国共産党に集中する。その共産党の頂点に立つ最高指導部の7人は中国14億人のトップに君臨し絶大な権力を持つとみられ、最高指導部に名を連ねるための権力闘争は熾烈を極めると推察する。
1978~89年にかけて共産党最高指導者であった鄧小平氏らは、最高指導者(党総書記)選出の混乱を回避するため、江沢民氏や胡錦涛氏と言った将来の指導者を事前に決定した。しかし、12年に習近平氏が選出された時は、事前に最高指導者は決められておらず、現在首相を務める李克強氏も有力候補者であった。また、政治局常務委員の有力候補者であった重慶市トップの薄熙来氏が党大会前に失脚し無期懲役の判決を受けたことからも、当時の権力争いが激しかったとうかがえる。
今年の共産党大会では、習近平総書記は最高指導者の2期10年の任期慣例を覆し、異例の3期目に挑む見通し。また、習近平氏を除く6人の政治局常務委員についても、習氏は習近平派と呼ばれる自身の人脈を昇進させるため画策していよう。ただ、そうなれば同氏の独裁色が更に強まるため、江沢民派や李克強首相が属す共産主義青年団等はそれを阻止するため策略を巡らしていよう。今年の共産党大会は前回以上に権力闘争が激しい可能性がある。
中国には「声東撃西(東を討つと見せかけて西を討つ)」など、行動の真意が別にあることを示すことわざが多く見受けられる。党内の最高指導部選出に関わる策略が、中国が直面する国内外の混乱とどのように関係しているかは知る由もない。しかし、指導部を選出した12年にも22年と同様に国内外で混乱があったことから、中国政治と国内外の混乱とが無関係とは言い難く、むしろ密接に関わっていると推測される。
中国本土市場の本格反発は共産党大会後になろう
22年の経済や外交状況が12年と類似していることから、22年の株式市場の動向も12年に類似する可能性があろう。
12年の株式市場を見ると、香港市場は海外市場の上昇を受けて年央から上昇。一方、本土市場は景気減速を嫌気し株価は下落を続け、11月の共産党大会後に景気回復もあり反発した。実際、景気は同年夏頃には底打ちしたものの、株価の反発が遅れた背景としては、中国を熟知する中国人投資家が共産党大会の開催に伴う政治的混乱を嫌気した可能性がある。
22年の景気は、都市封鎖のあった4月を大底に持ち直し傾向にあるが、未だ持ち直しの勢いは弱い。このため、政府は1.5兆元の特別債の前倒し発行によりインフラ投資を拡大し、住宅販売支援のため住宅取引規制の一段の緩和や利下げ等を進めると見込まれる。電力不足問題は8月末にはほぼ解消。また、新築住宅販売は既に下げ止まりつつあり、新型コロナの感染が落ち着いてくれば、景気回復が顕在化しよう。今年も党大会後に株価が本格的に上昇へ転じる可能性は高そうだ。
(投資情報部 白岩CFA)