中国は、海外依存の脱却を目指し、国を挙げて半導体産業に本腰を入れている。11月に取引を始めた「北京証券取引所」は「科創板」に続き、半導体を中心とする新興企業に新たな資金供給の場を提供した。本稿では、中国半導体市場の現状及び当局による資金面の支援、そして世界が注目するAI(人工知能)チップと車載用半導体に絞って中国企業の取り組みを紹介する。
ファブレス半導体市場で存在感を増す中国勢
中国は3割強を占める世界最大の半導体消費市場となっており、成長率も世界全体を大きく上回っている。特にIC(集積回路)設計分野の成長は著しく、その市場規模は20年に3778.4億元(約6.8兆円)となり、10年の約10倍まで急拡大し、中国全体のIC産業に占める設計の割合は20年に42.7%となり、10年の26.9%から大きく上昇している。IC設計分野では、米国企業が世界市場シェアの過半を占める圧倒的な地位を維持しているが、中国勢はファブレス(工場を持たず、設計・開発に専念するIC企業)で存在感を高めている。米調査会社IC Insightsのデータによると、20年に中国に本社を置くファブレス企業の世界市場シェアは15%となり、10年の5%、15年の10%から急拡大。中国のIC設計会社数も15年の736社から、20年には2218社(前年比24.6%増)まで急増している。
中国はICの国産化に本腰、政策・資金面で支援強化
中国政府は15年、ICの国産化比率を25年までに7割へ引き上げる目標を掲げたが、20年時点の国産化比率は15.9%にとどまっている。ただ、当局による政策面及び資金面の強力な支援が功を奏し、中国の半導体産業は投資ブームに沸いている。米国の圧力もバネとなり、今後国産化比率の向上は着実に進んでいくと見込まれる。中国政府は、税の減免や補助金のほか、主に直接金融面での支援を強化している。中央政府主導の「大基金」と呼ばれる「国家IC産業投資基金」は、第1期(14年9月設立、総投資額1387億元が既に完了)に続き、19年10月に規模が2000億元を超える第2期を設立した。また、19年に新設した上海証券取引所の「科創板」では半導体企業の新規上場が相次いでおり、今年新設された北京証券取引所も今後半導体企業にとって重要な資金調達の場となろう。
AIチップの成長ポテンシャルが大きい
AIの演算処理を高速化させる「AIチップ」は、計算時間や消費電力を減らせる特色を持ち、世界が注目している。中国の調査機関、前瞻産業研究院によれば、中国のAIチップ市場は24年に19年の6.4倍に急成長すると見込まれている。同分野では、エヌビディアなど米テック大手が先行しているが、中国勢が急ピッチで追い上げる構図となっている。中国では、EE Timesの「AI CHIPトップ10」に選ばれた中科寒武紀科技(カンブリコン、688256)など新興企業が多数活躍しているほか、異業種のテック大手も自社事業とのシナジー効果や競争力の向上などを狙い、積極的な自主開発を進めている。百度(バイドゥ、09888)は11年にいち早く布石を打ち、18年に自主開発の初代AIチップ「崑崙1」に続き、今年8月に2代目「崑崙2」も量産に入ったと発表した。百度のAIチップ事業は今年3月、独自に資金調達を行い、その事業価値は130億元(約2300億円)にのぼる。アリババ集団(09988)は子会社の「平頭哥(T-Head)半導体」を通じ、19年に同社初のAIチップ「含光800」を発表。「含光800」の推論性能とエネルギー消費効率はいずれも当時業界の最高水準とされ、自社のクラウドやネット通販事業などで活用されている。テンセント(00700)は今年11月、自主開発のAIチップ「紫霄」を含む3種類の半導体を発表したほか、AIチップのスタートアップ企業、「燧原科技」の大株主に名を連ねている。
中国勢がこぞって車載用半導体事業を強化
自動車に搭載する半導体は自動運転や電動化などを背景に増加傾向にある。英調査会社Omdiaによれば、25年の車載用半導体の中国市場規模は19年の約2倍となる216億米ドルまで成長する見込み。車載用半導体分野では、日米欧の半導体大手の上位10社が6割以上の世界シェアを持ち、中国勢の存在感は薄い。車載用半導体は安全性や品質面などで厳しい条件が求められるが、設計・製造の難易度はスマホ用の先端半導体と比べてかなり低い。新エネ車市場の急拡大や車載用半導体の品不足が今後の生産構造に影響を及ぼす可能性を好機として捉え、中国の半導体企業は、先を争って同分野における事業展開を強化している。北京兆易創新科技(ギガデバイス、603986)のNOR Flash製品は車載用ICの品質を保証する国際規格「AEC-Q100」の認証を獲得しており、自社初の車載用MCU(マイコン)も22年に量産を開始する計画。BYD(01211)傘下の「BYD半導体」はIGBT、MCUやCMOSイメージセンサーなど幅広い車載用半導体の量産を整えており、現在、深セン証券取引所の「創業板」での新規上場を申請している。調達資金は、主にSiC(炭化ケイ素)の次世代パワー半導体の製造などに充当する予定。紫光国芯微電子(002049)は今年、新株予約権付社債を発行し、車載用MCUの設計・開発を強化していく計画。同社の車載用セキュリティチップ「T9」も既にAEC-Q100の認証を獲得している。
(東洋証券亜洲有限公司 キョウ)