3月の全国人民代表大会(全人代)を経て、中国の今後の経済及び産業の注力分野が明らかになった。今年は積極財政を継続して6%の経済成長を目指し、中長期的にはデジタル経済の発展を加速させる。
イノベーションとデジタル経済に注力
全人代(3/5~11開催)で李克強首相が行った「政府活動報告」では、2021年の目標として「GDP成長率6%以上」「積極的な財政政策」「穏健な金融政策」などが示された。GDP成長率については、IMF(国際通貨基金)の予想8.1%と比べるとやや控え目の設定だ。これについて、李首相は全人代後の記者会見で「6%は低くない。6兆元(約100兆円)分の成長だ」と強調。世界経済回復の大きな不確実性などもこの目標設定につながったとした。
財政赤字の対GDP比も3.2%前後(20年実績は3.6%以上)と低めの設定だが、これまでは3%以下が多かったため、積極財政の継続と捉えられるだろう。地方政府の特別債(専項債=インフラ関連に使途が限定されたレベニュー債)は前年比ほぼ横ばいの3兆6500億元分を発行予定で、公共事業を中心に経済を支えていく姿勢が継続されている。
産業面では「科学技術イノベーション能力を向上させる」とし、IIoT(産業IoT)の発展や5Gネットワークと光ファイバーの整備がうたわれた。内需拡大面では「農村へのEコマース・宅配便サービスの普及」「自動車、家電などの高額消費の安定的増加」「駐車場や充電スタンド、電池交換ステーションなどを増設」などのほか、ヘルスケア、文化、観光、スポーツなどのサービス消費の発展も盛り込まれた。「インターネット+」を活用したオンライン・オフラインの融合も促進する。
環境対策においては、30年までの温室効果ガス排出量のピークアウトに向けた行動計画を策定するほか、新エネルギーを大いに発展させるとした。新エネについては、別途発表された「国民経済・社会発展計画案」の中でも「風力発電・太陽光発電・ゴミ発電・水素エネルギーなどの発展を積極的かつ効果的に推進」と強調されている。民生福祉面では、「『健康中国』キャンペーンを引き続き推進」「中国医学と西洋医学をともに重視」「『インターネット+医療・ヘルスケア』の規範化した発展」などが重点項目となる。
全人代では「第14次五カ年計画(2021~25年)及び2035年長期目標の要綱」も合わせて公表された。内容や方向性は昨年11月の簡易版「建議(提案)」にほぼ沿ったものだが、今回の正式版の特徴はデジタル経済の発展が大きく取り上げられたことだろう。数字的な目標として、デジタル経済のコア産業の対GDP比を20年時点の7.8%から25年に10%へ高めることが明記された。重点7分野は、「クラウド・コンピューティング」「ビッグデータ」「IoT」「IIoT」「ブロックチェーン」「AI」「VR/AR」。いずれも産業や社会のスマート化に直結する次世代技術だ。新型コロナ禍の中においてスマホ用の「健康コード」開発などが注目されたが、中国はそのデジタル社会のレベルをさらに一段階高めていく考えだ。
(上海駐在員事務所 奧山)