アリババ系列企業、アント・グループの上場は史上最大のIPOと期待されたが突如延期となった。背景には、不良債権が増大する中、政府がインターネット金融に対する規制の遅れを懸念したと考えられる。また、データ収集の既存ビジネスへの影響が大きくなり、政府は関連の独占禁止法を強化する方針を示した。ただ、アリババの業績への影響は限定的とみられ、IoT等の発展を考慮すると同社の成長余地は大きいと考える。
アント・グループの突然の上場延期発表
中国電子商取引最大手、アリババ集団(09988)系列で、電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループ(以下、アント)は20年11月5日に史上最大のIPO(3.6兆円相当を調達予定)として上海と香港の証券取引所への上場を予定。しかし、直前に上場延期を発表。上海証券取引所は、金融テクノロジーの規制環境の変化等が、アント上場条件を満たさなくなる可能性があると発表した。
インターネット金融のリスク管理強化の動き
アント上場延期の主要な背景としては、インターネット金融に対する管理の遅れが挙げられよう。アントは、個人や中小企業に対する中国最大のオンライン融資業者で、同事業は同社収入の約4割を占める。融資総額は2.1兆元(約34兆円、20年6月末)、うち98%は外部銀行への仲介か証券化され、融資はオフバランスで管理される(銀行はオフバランスの融資も政府の規制対象)。このため、アントの総資産は3159億元、資本金は2149億元に留まる。
銀行破綻は経済的影響が大きいため、金融当局は自己資本比率規制、定期考査等の厳しい管理や規制を課している。アントの融資事業は、銀行業と同類の融資業務とみられるが、政府による管理が十分でなかったようだ。コロナ禍で債務不履行が増加していることもあり、足元で政府はオンライン金融のリスクを懸念し規制を強めているようだ。銀行を傘下に持つ金融持ち株会社の資産は5000億円以上、銀行と共同融資を行うオンライン金融業者は融資額の3割以上を出資する等の規制を発表した。12月末に、アントは金融関連事業を持ち株会社の下に置く計画だと報じられた。金融当局の規制に従うとみられる。
データの重要性
アリババが取引先に同社の競合企業と取引しないよう求めた「二者択一」などが独禁法に違反した疑いがあるとし、12月24日に政府は調査を始めた。独禁法は08年に施行。20年1月に発表された改正案では、罰則規定の強化や市場優越的地位の認定でインターネット関連会社のデータ収集と処理能力を考慮すること、などが追加された。
アントが融資を拡大できた背景は、アリババと9.6億人の同社ユーザーの膨大な取引データをAIで分析することにより、融資の最適化やリスク管理が可能となったためと考える。ネット大手が保有するビッグデータの分析は、新たなビジネスを生み出し、既存業種を脅かす可能性がある。また、寡占による競争緩和は技術革新の遅れをもたらすことも想定され、政府は独禁法の改正を急いでいるようだ。
アリババの業績への影響は限定的
アリババはアント株式の33%を保有、20年4-9月期ではアントからの持分利益は77億元、アリババの税引き前利益の9.5%に相当する。今後は、アントからの利益の伸びは鈍化しよう。ただし、アリババは中国のパブリッククラウドIaaS分野で約4割のシェアを持ち、同市場は24年に19年の4.5倍に拡大すると見込まれる。クラウドは初期投資が嵩むものの、アリババの同事業は21/3期中に黒字化が見込まれ、今後は収益の柱になると期待される。なお、当社は21/3期、22/3期も同社の3割前後の増収を見込む。
今後、ネット企業を取り巻く規制環境は従来よりも厳しかろう。しかし、技術革新の中心はIoTで、ネット企業のビジネス拡大余地は大きいと考える。
(マーケット支援部 白岩、東洋証券亜洲有限公司 キョウ)