中国A株の"海外デビュー"第2弾が幕を開ける。MSCI新興国指数への組み入れ比率拡大に続き、6月にはFTSEの指数に組み入れられる。海外投資家の対中投資が本格化し、相場の起爆剤となるだろうか。
著名大型株への物色再び?
MSCIは、同社の新興国指数における中国A株の組み入れ比率を0.72%⇒1.46%に引き上げた(5/29発効)。この比率は年内に3.33%まで引き上げられる予定だ。また、同業の英FTSEラッセルは同じく中国A株をエマージング指数に組み入れることを決定(比率は5.5%)。6月24日の発効を予定している。
これらの指数は投資信託(ファンド)などのベンチマークとして採用されているため、指数連動ファンドを通じて機関投資家の買いが入りやすい。市場では、パッシブファンドを中心にMSCIでは600億米ドル、FTSEでは100億米ドル規模の海外投資資金がA株市場に流入すると見られる。
中国A株は2018年6月に"MSCI入り"を果たした。米中貿易摩擦の影響もあり、株価押し上げ効果は限定的だったものの、個別では海外投資資金の恩恵をしっかり受けている企業もある。
中国市場に対する理解がまだ十分とは言えない海外投資家は、まずは"安全運転"ということで著名大型企業を物色する傾向にある。ストックコネクトの「香港⇒上海」投資で常に売買代金ランキング上位に位置する貴州茅台酒(600519)がその代表格だ。ディフェンシブ性のある医薬の江蘇恒瑞医薬(600276)や食品の内蒙古伊利実業集団(600887)にも同じことが言える。「香港⇒深セン」投資では、宜賓五糧液(000858)や珠海格力電器(000651)が挙げられる。直近1年間のこれらの株価パフォーマンスはいずれも指数のそれを上回っている。一方、監視カメラの杭州海康威視数字技術(002415)は、海外機関投資家による根強い物色はあるものの、米中貿易摩擦も影響し、株価は弱含みだ。
FTSEラッセルへの組み入れ銘柄も、MSCI同様、著名大型株が中心となった。旬なセクターや好業績銘柄を中心とした王道の投資方法に加え、世界的な指数への組み入れを機に今一度、大型A株をメインとした投資戦略を見直してみたい。
存在感高まる海外投資資金
中国A株市場で海外投資資金の存在感は日増しに高まりつつある。この傾向は、14年11月に滬港通、16年12月に深港通(両方合わせてストックコネクト)がスタートしてさらに強まってきた。
深港通スタート後、A株市場の売買代金に占めるストックコネクト経由の比率(いわば「外資比率」)を見ると、17年は2~3%程度だったが、18年になると徐々に右肩上がりとなり、12%超となる日もあった。19年年初の相場反騰時も海外投資家の存在感がさらに大きくなった。
もちろん、買い越しと売り越しの日があるため、海外投資資金が常にA株を買っているわけではないが、一定の流動性を保っているとは言えそうだ。中国市場は、売買代金の8割を占めるとされる個人投資家の影響力が大きいため、海外投資家の動向が相場や銘柄を大きく動かすことはほぼない。しかしながら、「外資が買いを入れた」「ストックコネクトが買い増し状態にある」などの情報が流れると、個人投資家はそのバスに乗り遅れないように投資活動を活発化させることはある。この意味で、外資は間接的にA株市場の動向を左右していると言えよう。
MSCIはかつて、中国市場を「Too Big To Ignore(無視するには大き過ぎる)」と表現した。短期的には乱高下があるかもしれないが、中長期的にはその成長性を踏まえ、どっしり構えて行くのが得策だろう。
(上海駐在員事務所 奥山)
茅台酒(マオタイ)と五糧液(ウーリャンイエ)
特集記事に上海株・貴州茅台酒と、深セン株・宜賓五糧液が紹介されているので、ひとこと。
80年代から2000年代初にかけ、通算10数年、北京市や上海市に駐在し、宴席でご馳走になったマオタイやウーリャンイエは数知らず。でも当時は、随分乱暴に乾杯(一気飲み)を強制されたので、「飲まされた」と云いたくなる。中国本土の中華料理につきもののお酒は、紹興酒ではなくて、白酒という52~53°の強烈なスピリッツ、その双璧が貴州省・茅台鎮のマオタイと、四川省・宜賓市のウーリャンイエ。共に五穀類を原料とする蒸留酒で、両社の距離は200キロ程度だから、似たような気候風土でつくられる銘酒のようだ。
中国ネット通販大手の「一号店」によると、500mlの「飛天茅台酒(53°)」が約2500元(1元≒16円)、同じく500mlの「五糧液(52°)」が約1500元と極めて高価だ。
マオタイは日中国交正常化や米中国交回復の際、周恩来首相が、田中角栄首相やニクソン大統領と乾杯したことから、国賓用の酒として国内外の評判が高まり、ステータス・シンボルのみならず、賄賂用の贈答品など様々な領域で、人気が人気を、価格が価格を呼んできた。
中国には数百種もの地酒の白酒があるが、両社は群を抜く存在であり、市場に出回るマオタイやウーリャンイエの9割がニセモノと云われた時代もあったほど両者の希少性は高い。中国で間違いなく本物が買える場所は、人民大会堂(勝手には入れないけど)、免税店、友諠商店だと聞いたことがある。
強烈な香りのマオタイと、バランスのとれた芳香のウーリャンイエで好みが分かれるが、自宅では(やや)リーズナブル価格のウーリャンイエ、宴会では見得を張ってマオタイという富裕層も多い。
一寸気になるのが、習近平政権が贈答品として人気の超高級品(白酒・お茶・漢方薬など)に絡んだ汚職摘発を強化していること。貴州茅台酒の元首脳失脚も最近明らかになった。
(主席エコノミスト 杉野)