中国からの便り
第158回：NO DIGITAL, NO LIFE！深化するデジタル経済
中国内陸部、山西省にある平遥古城。世界遺産にも登録された城郭都市で、明から清の時代にかけて貿易や金融面で活躍した山西商人の栄華を偲ばせる。そして現代。この商都にもデジタル化の波が押し寄せている。観光施設への入場券はスマホで購入から決済を行うのが決まり。私もトライしてみたのだが......。
中国では「数字経済（デジタル経済）」という言葉が話題だ。今年5月に福建省福州で開催された「第2回デジタル中国建設サミット」。IT・ネット企業が、顔認証や病院予約及びカルテ管理、IoT（モノのインターネット）などの新テクノロジーやサービスを大々的に紹介しており、熱気がすさまじかった。
ところで、デジタル経済とは何か。実は、その定義に国際的コンセンサスはなく、具体的に何を指すかは曖昧だという。広義では、通信やIT（ハードウエアとソフトウエア）からなる「インフラ部分」と、各種サービスを含む「デジタル部分」で構成される。
消費者がとっつきやすいのは、スマホやタブレット、あるいは自動販売機などの端末を活用したサービスの利用だろう。具体的に言えば、「検索」「シェアリング」「電子決済」「クラウド」「メディア」「ゲーム」「インターネット小売（EC）」「旅行」などだ。いわゆる「ニューエコノミー」とほぼ同義で語られることもある。
中国のデジタル経済は著しい発展を遂げている。2018年の経済規模は前年比15.2％増の31.3兆元。成長率はGDPのそれを上回る。対GDP比率は34.8％となった。
街は、これらの技術を活用したサービスや製品で溢れている。滴滴出行（DiDi）などの配車アプリは、今や市民の移動に欠かせないツール。淘宝網（タオバオ）に代表されるECサイトでは国内外のあらゆる商品を手に入れることができ、配送レベルも上がってきた。高速鉄道のチケットはスマホ予約が当たり前だ。
一方、イマイチ感を醸し出すサービスもいくつかある。例えば「スマート自動販売機」と称される代物。日本で言えばただの飲料製品の自販機なのだが、なぜスマートかという一番の理由は、スマホ決済に対応しているから！客はスマホや自販機に表示されるQRコードを読み取ったり読み取られたりしながら商品を購入できる。
数年前まで、中国では自販機を見つけることすら難しかった。盗難の心配、ボロボロのお札が入らない、面倒なメンテナンス......。中国ならではの理由があったようだ。しかし、省力化の流れや前述の"スマート技術"の発展に伴い増加中。中国全土で、11年に約1万台だったのが15年に15万台へ急増し、20年には140万台まで増える見通しだ。
もう20年前のこと。とある北京の大学に紙コップ式コーヒーの自販機があった。眠気覚ましのために1杯飲もうと近づくと、機械の横にいた「服務員」と思しき女性が「ブラックですか？砂糖とミルクは入れますか？」と聞いてくる。戸惑いながら「あ......、ミルク入りで」と告げると、彼女は合点承知とばかりに機械を開け、ゴソゴソ作業を始める。1分後、果たして温かいコーヒーが完成し、私はお金を手渡しした。操作スタッフ配備の自販機。私は北京の空に向かって「自動」の意味を自問自答したものだ。今では隔世の感がある。
さて、冒頭の入場券。中国の身分証明証を持たない外国人はスマホ購入できない。窓口で現金で買おうと思ったが、今度は現金を持っていないことに気が付いた。しかし、こんな時でも無問題（モウマンタイ）。近くにいる赤の他人に優しく声をかけ、お金を貸してもらう。スマホ経由でその場で返金。以前、小銭を忘れたバスの中でも使った手だ。デジタル経済万歳！
（東洋証券上海駐在員事務所 奥山 要一郎）
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