主眼は富の分配
「共同富裕」が中国経済と株式市場での注目テーマになっている。所得分配を進め、貧富の格差縮小と社会全体の豊かさを引き上げることが狙いだ。極端な画一的平等主義ではなく富の偏在の是正で、中流層の拡大が進むだろう。中長期的には生活水準の向上や消費市場のすそ野の広がりが見込まれる。
垣間見られる企業の"忖度"
共同富裕は「国民全体の富裕で、庶民の物質生活と精神生活が共に富裕になる」と定義される。平均主義や画一的平等主義の指向ではなく、鄧小平氏が打ち出した「先富論」のように、「先に富んだ者は後から富む者を帯同し、支援していく」ことが重要となる。具体的な方法としては、◇中等収入層の比重を拡大する◇低収入層の収入を上げる◇高収入者の調整を合理的に行う◇非合法の収入を取り締まる◇高収入の人々と企業がさらに多く社会に還元するよう奨励する――などが示された。いわば、富の分配を適正に行いましょう、ということ。これを実現するため、税制や社会保障政策などの改革も推進する方針だ。
テンセント(00700)とアリババ集団(09988)はそれぞれ、共同富裕の実現などに向けて1000億元規模の投資を発表。美団(03690)も決算報告書に「全社会の『共同富裕』を促進する」との文言を盛り込む"忖度"が見られた。
中国独特の消費観念を見誤るな
一部で、高額消費や贅沢品購入が控えられるとの懸念もあるようだ。実際、高級ブランドの中国事業の先行きに不透明感が生まれ、S&Pグローバルラグジュアリー指数は8月下旬に約5カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。
ただ、共同富裕達成に向けた施策の一つは「非合法収入の取り締まり」であり、決して贅沢禁止令とは言い切れない。"爆買い"に代表される盲目的な消費熱は多少なりともトーンダウンし、今後は落ち着いた冷静な消費性向が生まれると思われ、しかも所得増に伴い高級品の購入層予備軍が膨らむことが考えられる。
例えば自動車では、高級車(中国人に人気のBBA=BMW、ベンツ、アウディ)の入門モデルが売れていくとも予想される。外車信仰が根強い中国では、少し見栄を張ってでも高級ブランドに乗りたいという消費者心理がある。その層が「30万~40万元程度のなら......」と思っても不思議ではない。免税品市場では、売れ筋の香水や化粧品は今や生活必需品の扱いと言ってよく、売上全体にはほとんど影響がないと見られる。海南島の免税店でショッピングを楽しむのは富裕層だけではなく、大半が中等収入層と見られる一般市民だ。白酒についても、市民の収入が増えプチ贅沢志向が高まれば、ミドル~ハイエンドタイプの需要が増え、市場全体も潤っていくと思われる。
「共同」という文字を見ると、平等主義や縮小均衡、あまつさえ清貧の思想などを想起してしまうかもしれないが、「富の分配による全体的な底上げ」が内実なので、過度な心配は不要だろう。
(上海駐在員事務所 奥山)