揺らぐ英国
2016年6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決定した英国は離脱予定日の3/29が目前に迫る中、混迷を深めている。
メイ首相とEUが合意していた離脱協定案が英国下院で否決されたのは記憶に新しい。離脱協定が否決された背景には、英領北アイルランドとアイルランドの国境管理を巡る問題がある。明確な解決策が見つかるまで英国全土をEUの関税同盟内に留めるというバックストップ条項が、実質的に英国をEUに縛り付けるものだという批判を集めているのだ。
影響を小さくしたいメイ首相と、EUとの訣別を求める強硬派等との摩擦は続き、英国のEU離脱(Brexit)の先行き不透明感は根強い。
「無秩序離脱」への懸念
最悪のシナリオとして警戒され、現実味を帯びてきているのが、英EU間でなんら取り決めも無いまま離脱するという無秩序離脱だ。
11/28に公表された英中銀の試算によれば、無秩序離脱となった場合、同月に出した最新の見通し(2023年末まで)に比べ、GDPは最大約7.7%縮小し、失業率は最大7.5%、インフレ率は最大6.5%まで上昇する他、不動産価格は3割程度下落する模様。
国外企業にとっても影響は甚大だろう。例えば、税関の復活だ。従来はEUの枠内で自由にモノやサービスが流通していたが、離脱後は国境で税関の審査を受ける必要が生じ、物流が大幅に滞ることが予想される。これを受け、日本企業をはじめ、世界中の企業が、拠点の英国から大陸欧州への移転や、英国内工場での生産一時停止を計画をしているようだ。
また、英国を本拠としている金融機関は離脱後、EU域内での営業免許を失う可能性があるため、世界の金融機関は最大8000億ユーロを英国から欧州大陸に移す見込みとの一部試算もある。
「無秩序離脱」回避に期待
国民投票以降の混迷はEUにとっても足枷となっていた。認めてしまえば今後も離脱を政治カードとして使うという一種のモラルハザードを招きかねないため、仮に英国で離脱撤回と国論が固まったとしても、EUが受け入れない可能性はあろう。
ただ一方で、影響の大きさを見るに、無秩序離脱を避けたいというのが本音だと思われる。1/29にメイ首相の離脱代替案について再採決が行われる予定。市場では否決が見込まれているが、今後どのような案が議会で多数派を取れるか探る狙いもあるようだ。足もとでは、再度の国民投票(を通じた離脱撤回)や離脱期限延長等を模索する動き、混乱回避のための緊急対策をまとめる案が出てきている。
英EU間で円満な妥協案を見出し混乱が回避されることに期待したい。
主な関連銘柄(銘柄略称)
主な関連銘柄としては、日立(6501)、安川電(6506)、パナソニック(6752)、トヨタ(7203)、良品計画(7453)、みずほ(8411)などが挙げられよう。
(マーケット支援部 山本)