中国株式市場でテック系大手と国有通信キャリアの事業提携がにわかに注目を集めている。元々、業務上の親和性は高く、自然な融合と見ることができる一方、政府系資本の接近を懸念する声も多い。
国有と民間の融合
テンセント(00700)は11月2日、国有で通信キャリア大手のチャイナ・ユニコム(00762)と共同事業の計画を発表した。傘下企業同士で合弁企業を立ち上げ、コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)やエッジコンピューティングを手がける考えだ。この発表を受け、市場の一部では「テック系がいよいよ国有企業に飲み込まれる」との見方も浮上。国有コングロマリットの中国中信集団(CITIC)がテンセントに資本参加するとの臆測も流れていたため、政府系資本との接近が改めて注目された形だ。
これに先立つ11月1日には、京東集団(JDドットコム、09618)傘下の京東科技(JDテック)と、チャイナ・モバイル(00941)傘下の上海モバイルがスマートシティやクラウド、ビッグデータ分野での戦略提携を発表していた。アリババ集団(09988)とチャイナ・テレコム(00728)の新たな戦略提携調印の噂も流れたが、後者の親会社が「事実ではない」と否定(両社は17年に提携済み)。いずれにせよ、「テック系&国有通信キャリア」の繋がりが市場の大きな話題となった。
国有企業と民間企業などの相互出資形態は、国有企業改革の一環として常に話題になってきた。13年の三中総会では「混合所有制経済(≒国有企業の部分的私有化)を積極的に発展させる」「国有企業の投資プロジェクトへの民間資本(企業)の参入許可」などが決定。この流れを受け、チャイナ・ユニコムの親会社である中国聯合網絡通信(600050)は17年、テンセントやアリババ、百度(09888)、京東集団系の資本を受け入れた。
また、民間の立訊精密工業(ラックスシェア、002475)は22年2月、安徽省政府系の奇瑞グループと新エネ車分野などで包括提携。一方、中国蒙牛乳業(02319)が政府系の中糧集団(コフコ)、万科企業(02202)が深セン市政府系の深セン市地鉄集団の出資をそれぞれ受け入れるなど、様々な思惑で国有と民間の融合が進んでいる。
企業側も市場の懸念を警戒?
懸念点も多い。国有資本との接近に伴い、イノベーションの担い手として活躍してきたテック系企業の間で、事業の自由度喪失、創造性の後退、人事権のはく奪などが問題視される可能性がある。国家資本主義の強まりが意識されれば、海外投資家の印象が悪化する可能性すらある。
企業側もそれを意識しているフシがある。テンセントとチャイナ・ユニコムの合弁が話題になった際、後者の関係者は「親会社の株式(構成)は変更なし。(今回の合弁は)市場が理解しているような"混合所有制改革"ではない」とあえて強調した。
前述のように、混合所有制経済は一般的に国有企業と民間企業の相互出資と定義付けられ、メリットとしては国有企業の生産効率やサービス提供能力の向上、コスト削減、柔軟な経営戦略の構築などが挙げられる。官民パートナーシップと言えば聞こえが良すぎるが、根底には民間の力を活用して国有企業改革を推し進めようという狙いがある。それでも、国家統制が厳しくなる昨今、市場では「国有が民間を飲み込む」と判断されやすく、それがユニコム側の懸念払しょく発言につながったようだ。
テック業界の規制強化に打ち止め感も
テック業界は近年、様々な引き締めに遭ってきた。背景には、産業の急発展にルール作りが追い付かず、管理が行き届いていなかったことがある。自由すぎるとグレーなビジネスや地下経済のようなものが出てくるリスクもあり、それを防ぐために一定の規制、ある程度は国の関与が必要というロジックだろう。
ただ、ここに来て管理や規制強化が一巡したと見られる。今回の国有大手との提携が多く浮上したことも、一種の「手打ち」と捉えることができるかもしれない。元々、テック系企業と通信キャリアはDX分野で事業の親和性が高く、協力を通じたシナジー効果も表れやすい。12月の中央経済工作会議を通じてプラットフォーム経済の健全な発展後押しなどの方向性が改めて決まれば、テック系を中心にマーケットの雰囲気が変わってくる可能性もあるだろう。
(上海駐在員事務所 奥山)