中国当局は2020年12月、独占禁止法の厳格運営に舵を切った。その後、ネット大手の独占禁止法違反の摘発・処分が相次ぎ、規制圧力は長引いている。短期的なセンチメント悪化は否めないが、当社ではネット大手の業績に対する影響は限定的と見ており、長期的には押し目買いの好機と捉えている。
ネット業界に対する規制強化はボトルネック
中国当局は20年12月、独占禁止法の厳格運営に舵を切った。その後、ネット大手の独占禁止法違反の摘発・処分が相次ぎ、規制圧力は長引いている。7月以降、①海外に上場する中国企業への監督・管理を強化する方針(国境を越えるデータや機密情報の管理に関する規制の整備)やテンセント(00700)系ゲーム動画配信2社の経営統合の差し止めなどが相次ぎ発表された。
中国当局は、デジタル経済の急拡大により、国民経済においてネット・プラットフォームの存在感が急速に高まっているため、産業の健全な発展、消費者の保護、イノベーションの促進や公平な競争環境の確保などの目的で、独占禁止法の厳格運営を始めたと考えられる。これまで発表された関連規制策や違反行為の摘発・処分を見る限り、当局はネット・プラットフォーマーを「つぶす」のではなく、見過ごしてきた問題点を「正す」狙いが伺える。テンセントとアリババ集団(09988)は、互いにサービスを徐々に開放することを検討していると報じられている。これまで問題視されてきた囲い込みによる競合排除、「プラットフォーム間の相互利用制限」という壁が撤廃されれば、インターネット業界にとっては望ましいことだと言えよう。
規制は重荷だが、業績への影響は限定的か
長引く規制強化による先行きへの不透明感は市場センチメントの重荷となり、投資マネーはインターネット・セクターから流出する動きが顕著に表れている。最近では、ストックコネクト経由のチャイナマネーも大幅な売り越しに転じている。
短期的なセンチメント悪化は否めないが、ネット大手の業績に対する影響は限定的と考える。オンライン融資、オンライン教育分野は規制強化で事業運営が大きな打撃を受けているが、その他ネット分野の多くは比較的小さい影響にとどまっている。また、社会貢献が求められる中、株主利益の目減りを懸念する声もあるが、企業のCSR(企業の社会的責任)活動を積極的に評価する動きはグローバルな潮流となっている。テンセントは19年11月に「用戸為本、科技向善(Value for Users, Tech for Good)」を新しい使命・ビジョンとして掲げ、21年4月に「持続可能な社会価値の創出推進」に500億元(約8450億円)を投じると発表している。
産業インターネット&国際化:新たな成長源へ
20年12月末時点、中国のインターネット利用者数は9.89億人となり、ネット普及率は70.4%に達した。今後利用者数の増加余地は限られると見られ、ネット各社は「下沈市場(3級都市以下の都市及び農村)」の開拓に注力するほか、産業インターネット及び国際化を新たな成長源に位置付ける動きが活発化している。テンセントは20年5月、今後5年間でクラウドやAI(人工知能)など「新基建(新型インフラ建設)」に5000億元(約8.5兆円)を投じる計画を発表した。アリババ集団は同年4月に今後3年間でクラウド事業に2000億元を投じると発表し、今期(22年3月期)利益の増加分を事業拡大と戦略分野への投資強化に回す方針も示している。
今後5Gの普及に伴い、あらゆるものがネットにつながる「IoT(モノのインターネット)」時代が本格到来すれば、その土台となるクラウドの重要性はさらに高まると思われる。24年の中国クラウドサービスの市場規模は19年比5.8倍の約9286億元(約15.7兆円)まで急成長すると見込まれている。
中国ネット大手は、戦略提携やM&Aなどを通じ、海外展開も積極的に進めている。中国のショート動画アプリ「TikTok(ティックトック)」は世界で絶大な存在感を示しているほか、中国発オンラインゲームの海外進出も目覚ましい。
バリュエーションは魅力的、見直し買いに期待
香港市場のインターネット・セクターは当面不安定な値動きが予想されるが、バリュエーションは魅力的。実績PER(株価収益率)を見ると、テンセント、アリババ集団ともに歴史的な低水準に近づいている。今後、規制の不確実性が解消されれば、見直し買いの動きが広がる可能性は高い。当社では同セクターにポジティブな見方を維持し、長期的には押し目買いの好機と捉えている。8月上旬以降、6月中間期の決算発表シーズンを迎える。ネット大手の決算発表に注目したい。
(東洋証券亜洲有限公司 キョウ)