4月16日に米中首脳会談が開催された。日米は多くの国と連携して中国の活動を抑止しようとしているようだが、アジア諸国は中国と「あいまいな関係」を好んでおり、日米の思惑通りには進まないかもしれない。
米中緊張関係の背景
習近平国家主席は「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、シルクロードを勢力下に置き、文化、経済でリードした中国を取り戻すことを目的としているようだ。その中には、台湾を含む「中国の核心的利益」を統一/併合することも含まれよう。一方、米国では貧富の差が拡大し社会不安が起こりやすい中、米中のGDP格差が縮小するにつれ米国民の焦燥感が反中感情に結び付いていると考える。今後も、米中のGDP格差は縮小すると見込まれ、米中の緊張関係は高まろう。
日米首脳共同宣言の目的は「抑止力」
このような中で行われた4月16日の日米首脳会談は、菅総理大臣がバイデン米大統領の就任後に対面で会う最初の外国首脳であったことから、注目を浴びた。会談後に発表された共同宣言には、日米に限られた「パートナーシップ」を示す言葉が12回、日米以外の「パートナー」を指す言葉が5回、計17回使われた。また、「自由」は11回、「国際法」などを示す「法」は6回、「抑止」と「防衛」は各々4回ずつだった。つまり、今回の宣言を簡単にまとめると、「国際法で規定された自由で開かれたアジア太平洋を形成するため、日米は防衛力を高め、その他のパートナーとも手を組み、中国や北朝鮮の活動を抑止する」となろう。
ただ、中国の経済力は年々高まり、それに伴い軍事力も充実しよう。中国の海洋進出等を抑制するためには、米国側の軍事力も中国以上に高めなければならないとみられる。しかし、米中の経済格差が縮小し、コロナ禍の経済支援策で米政府債務は拡大した。米国のみで中国の「抑止力」になることは難しいとみられ、今後は従来以上に多くの国を巻き込んだ「抑止力」が試されよう。
パートナー獲得の難しさ
中国の巨大な経済力と海洋進出等の行動との狭間で、周辺国は中国と「あいまいな関係」を維持してきた。共同声明に「『台湾』の平和と安定」ではなく「『台湾海峡』の平和と安定」と記されたのは、中国と経済的に深い関係を持つ日本が中国を必要以上に刺激したくないという気持ちの表れだと考える。また、台湾の蔡英文総統は、20年1月の総統再選後に中国の習主席が「一国二制度(中国を中央政府として平和統一の前提の下、資本主義制度の台湾を特別行政区として容認)」による台湾問題の解決を提案すると、即座に拒否したと報じられた。しかし、同氏は「中国を挑発せず」とも発言し、中国に配慮した言動を心がけている。
日本は米国との同盟関係を背景に、従来の「あいまいな関係」から米国支持へ一歩踏み出したようにみえる。ただ、日米がアジアの防衛について声高に語るにつけ、困るのは中国の周辺国かもしれない。米国のパートナー獲得は容易に進まないとみられる。
新型コロナの感染収束に伴う対中感情の変化に期待
今回の日米首脳会談は、両国とも新型コロナの感染が収束せず、国民の不満が蓄積されているとみられる中で行われた。特に、米国民はトランプ前米大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んだこともあり、不満のはけ口が中国に向かいやすいと考える。ただ、共同宣言では、日米が中国との協働を模索する旨が記され、中国は環境問題では協力する意向を示している。これが中国と他国との対話の突破口となり、新型コロナの感染収束後に中国を取り巻く状況が少しでも改善することを期待する。
(マーケット支援部 白岩CFA)