経済成長と同じペースで拡大する中国外食産業。その中心的存在は、もはや"国民食"とも言える火鍋で、業界最大手は海底撈国際控股(ハイディーラオ)だ。「量より質」を重視し始めた成長戦略を追う。
火鍋は外食産業の"勝ち組"
2023年の中国外食産業は前年比20.4%増の5兆2889億元市場に拡大した。新型コロナ禍やゼロコロナ政策の影響で、20年は前年比16.6%減、22年は同6.3%減とマイナス成長となったが、ここに来て右肩上がりのペースに戻って来た。23年の同産業売上高は10年比で3.0倍。この間、中国の名目GDPは3.1倍に拡大したので、経済全体と同じスピードで成長を遂げてきたことになる。
足元、24年3月の外食産業は前年同月比6.9%増で、消費全体(社会消費品小売総額)の同3.1%増を上回っている。23年以降は全体の伸びを上回るペースが続いており、消費の戻りの中心的存在として位置付けられよう。
中国人民銀行(中央銀行)が四半期に一度行う都市部預金者アンケート調査(23年10~12月期)によると、消費で「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対して「付き合い・娯楽」と答える者が20.9%まで上昇した。これは"コロナ前"の19年の水準(17~18%前後)を上回る水準。コロナ禍を経て、人に会ったりイベントなどに参加する重要性が再認識されており、外食産業の後押し要因の一つになっていると言えよう。
この外食産業で安定的人気を誇るのが火鍋だ。火鍋は鍋料理全般を指し、外食産業の12%程度を占めるとされる。22年市場規模は5500億元(推定)で、25年には21.7%増加して6689億元市場になる見通しだ。火鍋は外食産業の"勝ち組"で、友人や同僚との食事の際のファーストチョイスになることも多い。商業モールのレストランフロアでは火鍋専門店が一番人気ということが多い。宴会需要も旺盛で、本場の重慶市や四川省、内陸部の街では、白酒を酌み交わしながら鍋をつつく光景もよく見られる。
「稼げる体質」を構築中
その火鍋市場の最大手が海底撈国際控股(ハイディーラオ、06862)だ。23年末時点で中国全土に1351店舗を展開中。ゼロコロナ政策終了に伴う客足回復を受け、同12月期は前年比33.6%増収227.3%増益と好調だった。
同社は香港上場を果たした18年前後から規模拡大の動きを強めていた。折からの火鍋ブームに乗る形で、店舗網は17年の254店から21年の1329店まで、わずか4年で5倍超に拡大。一方、既存店売上高は右肩下がりで、新型コロナ禍の影響からマイナスに陥る年もあった。21年11月には不採算店の閉鎖・休業計画を発表し、拡大路線の修正、「量より質」への方針転換に着手した。
その効果がやっと現れ始めたのが23年だ。割引プロモーションの影響で客単価は前年の103.2元から97.3元に減少したものの、テーブル回転率が同0.9pt上昇の3.8回転/日、既存店売上高は同27.8%増となった。若者層の開拓や宴会需要の取り込みなどの戦略が奏功したようだ。コスト削減も進め、23年12月期の原材料費の対売上比率は前年比0.7pt低下の40.9%。業界内で比較的高かった人件費の対売上比率は同1.5pt低下の31.5%と、同業の呷哺呷哺餐飲管理(シャブシャブ、00520)と同水準まで下がってきた。拡大路線や手厚い福利厚生を調整し、「稼げる体質」を築きつつある。
近年は「巴奴毛肚火鍋」「湊湊」「九鼎軒」など具材や店舗内装を工夫した新興勢が台頭し、顧客の囲い込み競争が激化している火鍋業界。この状況に鑑み、同社は24年の新規開店数を一桁台の増加率にとどめる考えで、その分、顧客満足度向上やサービス充実化をさらに進める計画だ。
(上海駐在員事務所 奥山)