中国で存在感を高めている公募投資信託。その投資戦略を知ることは中国株の基本とも言える。ポートフォリオを見ると、安定志向継続の一方、テック系に再注目していることがうかがえる。
医療・バイオからテック系へ
中国の投資ファンドは概ね四半期毎に運用実績や組み入れ銘柄を公表する。「どの投信が何の銘柄にシフトしたのか」と情報をつぶさに分析し、自身の投資の参考にする投資家も少なくない。
ここ数年注目されているのは地場系大手の易方達基金管理(E Fund Management)が運用する投資ファンドだ。相場のベンチマークになるほどの人気を誇るのは、主に中国と香港のブルーチップに投資する「易方達藍筹精選混合」。2022年3月末時点での運用資産規模は約552億元(約1兆500億円)と、中国最大規模を誇る。
運用規模が100億元を超えるファンドのポートフォリオを見ると、ここ1年間で微妙に投資対象を変えてきたことが分かる。同じくE Fundが運用する「易方達優質精選混合」(運用資産規模は約168億元、22年3月末時点)では昨年前半まで、通策医療(600763)、美年大健康産業控股(002044)、華蘭生物工程(002007)など医療・バイオ関連が組み入れ銘柄上位を占めていた。ところが、年後半以降はテンセント(00700)や京東集団(09618)が浮上。ファンド勢がテック系銘柄の「底値を拾う」動きをしていることが示されよう。
主に消費関連株に投資する「易方達消費行業股票」(約237億元、同)は、白酒などブルーチップが組み入れ銘柄の常連だが、美的集団(000333)や海爾智家(600690)など白物家電株の存在感も目立ってきた。前者は常にポートフォリオ上位10銘柄に入っており、安定成長を期待する向きが多いと見られる。
中欧基金管理の「中欧時代先峰股票A」(約138億元、同22年3月末時点)を見ると、昨年まで上位に見られたガンフォン・リチウム(002460)や広州天錫高新材料(002709)などが直近でランク外となっている。リチウムイオン電池の川上原料分野の一部では利益確定売りもあるようだ。
ファンドは白酒がお好き?
改めて著名ファンドの直近ポートフォリオを見ると、海外投資家にもお馴染みの銘柄が上位に並ぶ。E Fundの各ファンドはいずれも、貴州茅台酒(600519)、宜賓五糧液(000858)、瀘州老窖(000568)などの白酒銘柄を上位に組み入れている。これは相変わらずの傾向で、たとえ株価が大きく下がったとしても継続保有という投資スタンスがあるようだ。論理的な説明は難しいが、白酒セクターこそが中国株の王道かつ安定銘柄で、それを抜きにして株もファンドも語れないという一種の信念も感じられる。個人投資家もファンドの動きを見て銘柄選択を行うので、いきおい白酒株は底堅く推移する。ただ、ファンドが少しでも手放せば逆の展開もあり得るので注意が必要だ。
このほか、やはり業界大手や金融、ハイテク、新エネセクター向け投資が多い。金融では招商銀行(600036)がポートフォリオの常連。深センに拠点を置く商業銀行だ。株価の動きはやや地味だが、内蒙古伊利実業集団(600887)が消費関連の代表格として捉えられていることも興味深い。
また、海外市場(香港がメイン)にも投資できるQDIIファンドでは、テンセントや京東集団、香港証券取引所(00388)などの根強い人気もうかがえる。前述のようにテック系銘柄が見直されており、美団(03690)のランクインも見られる。これら企業の足元業績は必ずしも芳しくないが、値ごろ感からの買い戻しの動きに注目したい。
(上海駐在員事務所 奥山)