新型コロナの感染拡大に伴う上海市のロックダウン(都市封鎖)は、3月末の開始から丸1カ月を経ても継続中だ。一部エリアで封鎖解除が進むものの、厳しい行動規制もあり、4月下旬時点でもほとんどの経済・社会活動が止まったまま。感染者数はピークアウトしたと見られるが、本格的な都市機能の正常化は5月中旬にずれ込み、経済と株式市場の大きな足かせになりそうだ。
3月から経済活動がほぼストップ
上海市のロックダウンは3月28日に浦東エリアで始まり、4月1日には浦西エリアを含む全市域に拡大した。上海では感染者が増加傾向にあった3月上旬から、商業施設の時短営業、レストラン・食堂の店内飲食禁止などの措置が取られており、実質的にほぼ2カ月近くも正常な経済活動ができていない。
今般のロックダウンは、原則的に家から出ることを禁じる、いわばフルスペック型の封鎖。散歩や買い物などでの外出は一切許されていない。ほぼ唯一の食料調達源であるネットスーパーはアクセス過多で繋がらず、配送網もパンク状態。政府による物資配給も遅れ、市民生活に多大な影響が出ている。PCR検査での陽性者は軽症・無症状者でも強制隔離となるため、野戦病院の建設も相次いだ。一部で医療崩壊状態も伝えられている。
中国はゼロコロナ政策を継続しており、今後も堅持していく構えだ。同政策は「大規模なPCR検査」「徹底的な隔離」「厳格な水際対策」の3本柱からなる。必ずしも感染ゼロを目指すものではなく、感染者が出た場合でも封じ込めと拡大防止に注力する方策だ。最近は「動態清零(ダイナミックゼロ)」という言葉を使うことが多い。国家衛生健康委員会によると、その定義は「感染源の積極的発見」「有効的な患者手当て」「重症化防止」「重症者と死亡者の減少」となる。
やや複雑になるが、中国はこの動態清零を実現するために、まずは「社会面清零」を目指している。これは「市中感染者比率を限りなくゼロにする」ことを指す。すでに隔離中の者(中国ではコロナ感染者の濃厚接触者やその濃厚接触者も強制隔離の対象になる)から感染者が出るなら許容範囲で、その代わり一般検査からは出ないようにしましょう、ということだ。上海の市中感染者比率(一般検査での陽性者/全陽性者)は、3月31日時点では20%を超えていたが、4月20日前後には2%台まで下がってきた。各地の例では、この値の低下度合いによって「社会面清零の達成」を宣言し、厳格な封鎖措置を緩和していくことが多い。
上海の1日当たりの新規感染者数は4月14日発表分で過去最高の2万7719人に上った。4月は中国全体の新規感染者数の9割以上が上海に集中する日がほとんどだった。数の面では、この日をピークに減少傾向が見られるが、中国では数百人や数千人でも驚きをもって受け止められる数字なので、前述のようにいくら「社会面清零の達成」を宣言したところで、市民の警戒感はなかなか解けないかもしれない。今回のコロナ大感染と不便なロックダウン生活を経て、市民の先行き不透明感も根強い。
そろり正常化へ、隔離リスクは継続
さて、今後の見通しはどうなるか。上海のロックダウンの解除は地域を区切って段階的に行われていくと見られ、実際に4月中旬から限定的な外出が認められるエリアもある。ただ、必ずしも「解除即自由」とはなっていない。区や街道(街のような区画)を跨いで移動してはならないなどの規制が残り、今後許可されたとしても外出時に通行証やPCR・抗原検査などの陰性証明が求められるかもしれない。また、自宅の封鎖が解除されても、勤め先のオフィスや工場が閉鎖状態のままでは働き場所がない。逆もまた然りだ。
上海市の現行規定では、マンションやオフィスで陽性者が1人でも出れば14日間のロックダウンが行われる。ロックダウン中に陽性者が発覚すれば、その日からのカウントで14日間がまた始まる(いわゆる「隔離のおかわり」)。封鎖解除後で自由の身になっても、その後に1人発見されれば「振り出しに戻る」。すぐに14日間の隔離生活がスタートする。
こうなると、いきおい市民の生活様式がやや消極的になることが予想されよう。上海全域の封鎖解除は5月中旬にずれ込み、その後に経済・生産活動が徐々に正常化すると見られるが、当面は不要不急の外出や外食は避け、会議やイベントも小規模またはオンラインでの開催が多くなると見られる。旅行や出張の機会も減りそうだ。訪問先で感染したり濃厚接触者になると14日間の強制隔離となるリスクが出てくる。出張から勤務先に戻った者が濃厚接触者と判明すると、その濃厚接触者として同僚やオフィスが隔離・閉鎖を余儀なくされ、業務に支障が出る場合もある。
2500万人の上海市民は1カ月以上の不自由な生活を強いられただけに、封鎖解除に伴い解放感が"爆発"し、消費や観光、外食関連のベントアップ需要が創出される可能性もある。もっとも、これは短期的な動きにとどまると見られる。新型コロナの感染状況やゼロコロナ政策の継続という現実を前に、消費行動はやや保守的なものになりそうだ。
物流やサプライチェーンへの影響も長引きそうだ。上海のロックダウンによる通行制限で輸送網が寸断され、現場は混乱を極めている。民間の物流トラックが政府の配給品配布用に接収され、市民のネット注文品の大幅配送遅延が起きるなどの事態もあった。また、隣の江蘇省には電子系企業の工場が多数あるが、上海経由での製品や部品の輸送が滞り、出荷への影響や工場の稼働一時停止なども報告されている。この混乱は5月も続きそうで、正常化し始めるのは6月以降になると見られている。
いずれにせよ、今回の封鎖を経て、上海はもとより中国各地でライフスタイルの変化が伺える。不要不急の外出を減らす、旅行は「安・近・短」がメイン、保存食の備蓄を増やす動きなどが今後も強まろう。都市部では、食事をヘルシー志向にしたり、外食はできるだけ個室を利用するという声も聞かれる。このような中国版「新しい生活様式」が今まで以上に強く意識されていくと思われる。
(上海駐在員事務所 奥山)