中国国内での免税品購入がにわかに盛り上がっている。買物客が向かうのは中国最南端の海南島。同地の「離島免税」政策が、新型コロナの影響で海外旅行ができない今年、市民のニーズにうまく合致している。
宇宙船のような巨大免税モール
11月中旬の月曜日早朝。上海虹橋空港を7時前に発つフライトは満席だった。向かうのは海南島・三亜。「中国のハワイ」と呼ばれるリゾート地だ。
新型コロナの感染拡大を受け、国境をまたぐ移動が困難になった今年。海南島が"買い物天国"として脚光を浴びている。中国人が中国国内で免税ショッピングを楽しめる「離島免税」政策。2011年4月にスタートしたこの政策が一気にブレークしている。今年7月から、免税品購入の年間限度額が1人当たり3万元から10万元に引き上げられ、対象品目も38種から45種に増えた。スマートフォンや酒類も免税価格で買えるようになり、"爆買い"を誘発している。
三亜市内から車で約30分の観光リゾート、海棠湾(ハイタン・ベイ)。海岸沿いに車を走らせると、巨大な宇宙船のような建物が目に入ってくる。その名も「三亜国際免税城」。建築面積は12万平米で、東京ドームの約2.6倍の大きさ。世界最大規模の免税店である。
入り口で体温検査や荷物チェックを受け、マスク姿で入店。平日にもかかわらず店内は熱気ムンムンだ。関係者によると、前週末の台風の影響で客足はいささか少ないとのことだが、それでも人気ブランド店には行列ができていた。
「店」というより「城」という名がふさわしい免税モール。専門店やブースのほか、催事場のような特設販売スペースもふんだんに設けられている。レストランや子供が遊べるキッズコーナーもあり、家族全員で楽しめる趣だ。
取扱商品は豊富。化粧品、香水、腕時計、かばん、アパレル、ジュエリー、お酒、電子製品など何でもござれ。その中でも一番人気はやはり化粧品だ。「ランコム」「エスティ ローダー」「グッチ」などの店に観光客が押しかけていた。11月はちょうど販促キャンペーン月間。化粧品は「3点購入で10%引き、5点購入で20%引き」というお値打ち価格だ。例えば、中国で大人気の「エスティ ローダー」の美容液。50mlタイプの通常価格は900元だが、免税価格は698元だった。さらに5本買うと1本当たり558.4元になり、通常価格比で約40%の割引だ。これは安い。この誘惑にかられ、思わずたくさん購入してしまう人も多いようだ。
新たに免税対象に加わった電子製品。ただ、販売コーナーには客があまりいなかった。人気の「iPhone 11」はすでに売り切れ。アップルストアで買う正規料金より約2割安く、客が殺到したらしい。最新の「iPhone 12」はまだ取り扱っていなかったが、こちらも発売即完売になるだろう。
前述のように、免税品は年間10万元まで購入できる。購入時にレジで身分証明書(外国人はパスポート)を提示する必要があるので、その過程で管理しているのだろう。
免税ショッピングでは「あれも買えばよかった」と後悔することもままあるが、中国では心配ご無用。海南島を離れてから半年以内ならば、免税店のオンラインショップを通じて買い物ができるのだ。スマホ一つで免税品をお買い上げ。これはクセになりそう。iPhone 12の免税価格での発売を首を長くして待つ日々が続きそうだ。
免税購入額の引き上げで一気にブレーク
海南島の離島免税政策は2011年4月にスタートした。同年12月に省都・海口市の海口美蘭国際空港に免税店が設けられ、海南島が本格的に"免税アイランド"としてテイクオフ。ただ、当初の購入額は5000元(1回当たり上限、年2回まで)。翌12年に8000元(同)まで引き上げられたが、盛り上がりは限定的だった。徐々に話題となったのは、三亜国際免税城がオープンした14年頃から。年間の購入上限額が16年に1万6000元、18年に3万元となり、買物客も増えた。
海口市内の「海口日月広場免税店」と、中部の瓊海市の「瓊海博鰲(ボアオ)免税店」が開業した19年。海南島の免税品販売額は前年比33.6%増の134億9000万元に上った。20年に入り7月から購入上限額が一気に3倍超の10万元に引き上げられると、買い物熱が一気にヒートアップ。7~9月の免税品販売額は前年同期の3.3倍まで膨らみ、10月1日から8日にかけた国慶節連休中でも同148.7%増となった。1~10月の累計では同86.5%増の195億元。すでに19年通年の販売額を大きく上回っている。
海南島にある免税店4店舗は全て中国旅遊集団中免(601888)が経営している。同社は中国の免税店最大手で、市場シェアは9割(推定)。百貨店経営の王府井集団(600859)が免税店経営権を取得し、アリババ集団(09988)が世界大手のデュフリーと合弁会社を設立するなど、他社の動きも目立つが、同社は規模のメリットでまだまだ優位性を保てそうだ。
同社が海口で経営する市中免税店を訪れた。ショッピングモールの日月広場の一角にあり、一般店舗は閑古鳥が鳴いている一方、免税店は買物客でごった返していた。こちらでは一部商品が(1点購入でも)15%割引と、三亜より値引き率が高い。普段は大きな買い物をしない人でも、この安さの前では財布の紐が緩くなってしまうかもしれない。
離島前の最後のチャンスは海口美蘭国際空港。市中免税店で購入した商品の受け取りカウンターもあり、観光客が列をなしていた。荷物をピックアップしたら、残りはショッピングの時間。免税店の看板には「出国しなくても世界を買おう」と書いてある。まさにその通り。海外に行けない現在、中国人にとって海南島は免税品を買える唯一の場所。冬の寒さを逃れて暖かい海南島を訪れる観光客も多く、免税品市場はこれからも一層盛り上がりそうだ。
(上海駐在員事務所 奥山、孫)