新型コロナウイルスの感染拡大を経て、中国でオンライン医療が注目されている。政府は各種政策で後押し中。企業の収益化はこれからだが、ニューエコノミーの一分野として中長期的な成長が期待されよう。
診療市場は2年で2倍規模へ
「平安好医生の7×24時間の診療プラットフォームには、疫病発生から4月8日までの間に累計11億1000万人が訪れ、新規登録ユーザーは10倍になりました」――。中国版"7時のニュース"の「新聞聯播」が4月14日付放送でこう伝えた。中央電視台(CCTV)の看板番組がオンライン医療を大々的に取り上げた意味は大きい。
新型コロナの感染拡大を経て「巣ごもり」や「自粛」状態が続いた中国。ネットスーパーやフードデリバリーなどが中心の在宅消費の中で、スマホで行えるオンライン診療も存在感を増している。
中国政府は従来から医療のネット化に力を入れてきた。2015年の「インターネットプラス」政策の登場に前後して、オンライン上で日常的な健康・医療相談ができる「軽問診」ビジネスが続々と生まれたのが黎明期。18年にはオンライン診療での処方箋発行が認められるなど、市場の規範化・法制化が進んだ。20年3月にはオンライン診療の一部に公的医療保険の適用方針が固まった。これは、新型コロナ禍で外出がままならない患者向けの措置だが、北京市ではすでに実施されている。
中国のオンライン医療は、「オンライン診療」「ネット病院」「遠隔医療」に分かれている。このうち、一般的な疾患及び慢性疾患患者の再診を行うオンライン診療の市場規模は、20年に18年比倍増の1000億元、26年にはさらに2倍の2000億元に拡大すると予想されている。なお、現行法規では、オンライン診療は再診のみで、初診は認められていない。ただ、「問診」「コンサルティング」などの名目で実質的に初診を行うグレーな運用も若干あるようだ。
政府の成長戦略に取り込む動きもある。上海市政府は、「オンライン新経済の発展促進に関する行動方案(2020~22年)」(4/8公布)の重点項目としてオンライン医療を挙げた。従来通りの運用はもちろん、5G技術の遠隔医療などへの応用を進めるという。
アリババやテンセント、JDドットコムなどのネット・IT大手や中国平安保険などが相次いで参入しているオンライン医療市場。各社の収益化はこれからだが、さらなる規制緩和と市民ニーズの高まりが続けば採算が取れる可能性もある。中長期的な視点で見ていくことが必要だろう。
(上海駐在員事務所 奥山)