米中貿易摩擦の原因が、世界第2位の経済大国に米国が追い抜かれるという危機感であるとみられることから、以前の日米貿易摩擦のように長期化が見込まれる。また、当時日本が内需拡大策を採用したように、中国も同様の政策を継続しよう。株式市場は二極化が予想され、米国の圧力を受けた産業の株価は市場の動きを下回るとみられる一方、内需関連株は景気下支え策を受けて市場の動きを上回ろう。
日米貿易摩擦は1960年代末から25年以上継続
日米貿易摩擦は、日本製品の対米輸出拡大を背景に1960年代末から繊維産業で始まり、自動車、半導体等の個別産業へシフトした。その後は、米国は対日貿易赤字の縮小を目指し、日本の非関税障壁や商習慣を改善するよう要求。1989年に日米構造協議が開かれ、1993年には経済全体を協議するために日米包括経済会議に拡大された。ただし、バブル崩壊後に日本経済の勢いが急速に衰えたこともあり1995年頃には米国の対日圧力は弱まった(図表1参照)。この間に、大店法改正、政府調達に対する外資企業のアクセス改善、金融の規制緩和等が決定された。
日米貿易摩擦と米中貿易摩擦の比較
日米貿易摩擦と米中貿易摩擦の類似点は、①米国経済が世界第2位の経済大国に追い抜かれるという危機感が貿易摩擦の原因になっているとみられること、②米国は相手国の成長産業に対して厳しい要求を行うこと、③貿易摩擦時の日中の経済体制は保護主義的で、自由主義を掲げる米国と異なっていること、などが挙げられる。
一方、相違点としては、①日本は米国の同盟国だが、中国は共産主義国であるため米国から「敵視」されやすい。また日本が同盟国で自国防衛の一部を米国に依存するため米国への報復を控えざるをえなかった一方、中国は報復していること、②中国は巨大な成長市場であるため、日米摩擦とは異なり米企業が早期解決を期待していること、③中国の人口は13.9億人と米国(3.3億人)の4倍以上であるため、米国は追い抜かれるという危機感が日米摩擦時よりも強い可能性があること、などが挙げられよう。
日米貿易摩擦の経緯に鑑み、米中貿易摩擦の今後の展開を以下のように考える。
1)摩擦は長期化の可能性
米中は、中国の非関税障壁、知的財産権など、日米貿易摩擦の最終局面で話し合われた問題について既に合意に近いと報じられている。また、中国の経済成長率が高いこともあり、合意が遅れるほど米国の経済的優位性が薄れることを考えると、米国は早期の合意を望むだろう。ただし、日米貿易摩擦が合意までに25年以上を費やした一方、米国が対中貿易赤字を懸念し始めたのは2000年代半ばで、摩擦の歴史は20年にも満たない。このため、米中が年内に合意しても一部合意にとどまり、最終合意は来年以降に持ち越される可能性が高いだろう。
2)米国の中国への対応が一段と厳しい可能性
中国が米国の追加関税に報復し、また、ハイテク技術の発展が今後の中国成長を支えることを考慮すると、米国は中国や中国のハイテク企業に一段と厳しい態度で臨むとみられる。このため、米国は米国製品のファーウェイに対する輸出禁止を安易に解除しないかもしれないし、このような動きが他の中国企業にも広がる可能性があろう。
3)中国は内需拡大を継続へ
日米貿易摩擦やプラザ合意に伴う円高による景気減速に対処するため、日本は「前川レポート」に基づき内需拡大策を推進した。同様に、米中貿易摩擦が続く限り中国は輸出拡大が難しいため、景気下振れを避けるために金融緩和や内需拡大策(景気下支え策)を継続しよう。政府の企画部門である発展改革委員会は貿易摩擦が景気に影響を与えるなら景気下支え策を拡充すると発表した。
4)中国の株式市場は二極化へ
上海総合指数は貿易摩擦の動向に影響され目先値動きの荒い展開が見込まれるものの、景気の安定や市場金利の低下等を背景に株価は徐々に安定してこよう。銘柄としては、日本の貿易摩擦時のように、摩擦が続く間は米国の圧力を受けるハイテク企業は一貫して株価が市場の動きを下回るとみられる。一方、内需関連株は景気下支え策を受けて市場の動きを上回ろう(図表2)。
米国の対中制裁への強い意志が見通し変更の背景
従来当社は、トランプ米大統領が米消費者に影響が大きい中国製品に対する追加関税の引き上げを躊躇すると考えていた。しかし、米国は5月10日に約2000億ドルの中国製品の追加関税率を10%から25%へ引き上げ、それに続き13日に追加関税を課していない約3000億ドルの中国製品に対する追加関税の詳細を発表した。更に、中国の戦略企業であるファーウェイに対する制裁も発表した。制裁を課すことが「強いアメリカ」を演出し、大統領選に有利に働くとの判断からかもしれない。ただし、米国による制裁は米中関係を悪化させており、最終合意までには予想以上に時間がかかると考える。
(東洋証券亜洲有限公司 白岩)