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中国からの便り

第183回:日本と真逆のワクチン事情、香港市民は接種に躊躇

市民スポーツセンターはワクチン接種の会場となっており、アクセスは便利。

新型コロナの発生から約1年半が経過したが、未だに収束の目処は立っていない。欧米の主要先進国では、ワクチン接種の進展により感染状況は落ち着き、収束への道筋も見通せる状態になりつつある。一方、インドなど新興国では感染爆発やワクチン不足で状況は一層厳しくなっている。

香港の感染状況は、厳しい規制措置により落ち着いている。過去14日間(5月11日~24日)の累計新規感染者数は23人で、域内感染は7人。これまでの感染者数合計は1万1834人、死者数合計は210人にとどまっている。また、人口約750万人に対して、新型コロナワクチン2250万回分を確保している。現在、16歳以上の市民が希望すれば、ワクチンを接種できる。しかも、米ファイザー・独ビオンテック製と中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製の2種類のワクチンを選ぶこともできる。ワクチン接種会場へのアクセスも非常に便利。29のワクチン接種会場を設置しているほか、約1500のクリニックでも接種できる体制を整えている。

ただ、香港市民の接種意欲は低い。ワクチン接種を始めてから約3カ月が経過したが、5月24日時点の累計接種回数は約215万回、1回目の接種率は19.1%、2回目の接種率は13.6%にとどまっている。

ワクチン接種が進まない主な理由としては、感染が落ち着き、市民に切迫感がないことや、ワクチンに対する不信感が根強いことなどが挙げられる。各国政府や製薬会社はワクチンの一刻も早い実用化にこぎつけるため、開発やその安全性と効果を証明するための臨床試験期間を大幅に短縮したため、特に開発の「急ぎすぎ」に対する不信感が根強い。連日メディアでワクチン接種後の副反応や死亡事例が報道されていることも、市民に接種を躊躇させている原因とみられている。これまで、累計で約20件の死亡事例と2800件超の副反応症例が報告されている。専門家委員会ではワクチン接種と死亡事例の多くは因果関係が不明または否定的であると結論付けているが、依然として不安に思う市民は多い。

香港政府は、ワクチン接種率を上げて、集団免疫の獲得を図るため、ワクチン接種対象者を12歳以上の市民まで拡大することを検討しているほか、インセンティブ措置も次々と打ち出している。例えば、ワクチン接種者に対して強制隔離期間を短縮したり、ワクチン接種を条件に飲食店などの営業条件を緩和するワクチンバブル(Vaccine Bubble)も導入している。また、感染状況が落ち着いている中国本土との通常往来再開に向けた協議も進めている。海外との自由な往来再開につながる「ワクチンパスポート」の準備も整えている。現在、香港ではワクチン接種後に紙の接種証明を取得できるほか、政府のスマホアプリ「智方便(iAM Smart)」には電子版のワクチン接種証明書も発行できる。

香港では、ようやく一連の施策が奏功し、ワクチン接種率が上昇し始めている。筆者の周りでも、ワクチンを接種したり、予約する人が増えている。ただ、筆者は慎重派なので、たとえ日常生活に不便だとしても、当面ワクチンを接種しないと決めている。

(東洋証券亜洲有限公司(香港現地法人) 黄 蘊姸)

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