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中国からの便り

第167回:新型コロナウイルスとSARS 香港の体験

スーパーの日用品の棚は空っぽだ。(撮影)東洋証券

「香港の新界地区にある35階建ての集合住宅に住む62歳の女性が新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。違う階に住む住人にも新たに感染が確認され、香港の衛生局はトイレの配管経由で感染が広がった可能性があるとして調べています」との緊急ニュースが夜中に流れる。この1カ月間、新型ウイルスに関するニュースが連日放送される中、香港人の頭の中から「ウイルス」の文字が離れない。香港の新型コロナウイルスの感染者数は62人に増えた(2/18時点)。感染が拡大しているため、香港の衛生当局は、市民は出来るだけ公共の場を避け、予防を徹底するよう呼びかけている。

新型コロナウイルスが12月下旬に中国・武漢で確認されて以来、香港政府は香港国際空港などで入国者に健康カードの記入義務や本土と出入国ポイントの一部閉鎖などの対応措置を取った。しかし、措置の有効性や実施のタイミングに対し、市民の不満や疑問が日々高まった。更に香港の医療機関が医療品、防護用品、隔離施設の不足などの問題に直面し、一部の医療関係者は「これでは香港市民や医療関係者の安全を守れない」と、香港と中国本土との境界の完全封鎖を求め、2月3日から5日間のストライキを行った。

香港市民の強い不満の原因は17年前のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行だ。僅か4カ月で、累計で感染者数は1755人、死亡者数は約300人だった。当時私は小学3年生だったが、香港人の暗黒の日々を克明に覚えている。政府はSARSの集団感染を恐れ、今回と同様に早々に小中学校や幼稚園などを約2カ月間の休校にした。当時オンライン授業はあまりなかったため、両親は学校に足を運び、宿題と教材を家に持ち帰り在宅授業を行った。あの頃、毎日家族と一緒にテレビニュースを見ては、早くSARSがなくなる事を祈った。当時の香港は全面封鎖されるとの噂があり、大勢の人がスーパーマッケートへ急ぎ、日用品と食品を買いあさった。ただし、今回と異なり、中国からの供給が安定していたため、マスクや消毒に使う漂白剤などの争奪戦は無かった。現在香港人が一番注目しているのは日用品の入手だ。最近、スーパーに行くと、トイレットペーパーや漂白剤などの日用品の棚は常に空っぽだ。マスクの価格はうなぎ登りで、マスク50個で約8500円だ。それにもかかわらず、日用品とマスクを求める人が大勢いる。供給が早く安定し、人々の心が落ち着く事を希望する。

最後に現在香港政府が推奨している「在宅勤務」について述べる。香港政府は人との接触を避けるため、2月上旬から公務員の在宅勤務を実施し(最新の在宅勤務措置は23日まで延長)、民間企業にも可能な限り導入するように要請し、当社も在宅勤務制度を導入した。筆者はリサーチアシスタントとして、主にレポートの翻訳や資料作成に従事する。2月3日から在宅勤務を始め、リサーチ業務は在宅勤務に向いていると思ったが、日常のデスクワークはノートパソコン1台では普段より時間がかかる。情報収集の手段が限られ、プリンターなどのオフィス機器もないため、当初は不便さにイライラしていた。確かに通勤時間がないことなどのメリットがあるが、同僚とのコミュニケーション不足が仕事に支障をもたらすデメリットもある。また、仕事とプライベートのオン・オフの切り替えが曖昧で、時間の自己管理が必要だと感じた。約2週間の在宅勤務を経て、現在はかなり慣れてきたものの、時々オフィスの同僚が恋しくなる。

(東洋証券亜洲有限公司(香港現地法人) 黄 蘊姸)

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